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四百年前の噺を、安楽庵策伝に聞く~日常ドキュメンタリー:三遊亭はらしょう

三遊亭はらしょう

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2月25日に開催された「四百年前の落語を聞く会」の発案者は、三遊亭はらしょうさんです。さて、どのような経緯で落語会を開催しようと思われたのでしょうか。三遊亭はらしょうさんがご自身で解説してくださいました。

ん?ご自身…?

何はともあれ、じっくりお読みください。

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四百年前の噺を、安楽庵策伝に聞く

昨年2023年は、安楽庵策伝の「醒睡笑」が書き始められて、400年が経つ年である。
落語の世界にとっては実にめでたい節目にあたるのだが、そう言われてもピンと来ていない方が、ほとんどではないだろうか。
冒頭から、普段読み慣れない漢字が出て来たものだから、「YouTubeでも見て寝るか」と、今、斜め読みでもされているのではないだろうか。

ああ、実に困った、俺は、どう書き進めて行けばよいのだろうか。

「これこれ、そんなもん、はらしょうが語るから、みんな聞かへんねん、わてに喋らせんかい」

えっ?急に誰か出て来た、なんだ、この頭つるつるのジジイは、はっ!ひょっとしてあなたは!

「わはは、わての名前は、あんらくあんさくでん」

あんらくあんさくでん!えっ、安楽庵策伝ですか!?

「おうそうや、びっくりした?記念すべき400年や、わてに喋らせてぇな」

あまりにもSFみたいな展開ですが、その方が先に進めそうなのでよろしくお願い致します。

「おお、ありがとう」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

誓願寺本堂に展示されている策伝上人の姿絵

えー、みなさま、京都の新京極という所に、誓願寺という寺があってな、実は、ここは落語発祥の地と言われとるんや。

今から400年前の元和9年、わては、ここの住職やった。

わてがガキの時分から、見聞きしたり本で読んだ色んなおもろい話、そんなんをまとめた本が「醒睡笑」なんや。

せいすいしょう、眠りが醒める位、おもろいっちゅう意味や。

この本に書いた笑話はな、のちに、京都の、露の五郎兵衛、という芸人の手によって芸能に発展して行くんや。

ここから、古典落語の元ネタになった話は「子ほめ」「青菜」「たらちね」「平林」「浮世根問」「寄合酒」「犬の無筆」「池田の牛ほめ」「かぼちゃ屋」

あー、他にもぎょうさんあるが、数え上げれたらキリがないわ。

まぁ、そんな歴史的な本から、400年たったのが、2023年や。

元和から令和という、元号の雰囲気もちょっと似ている昨年の秋頃、はらしょうという落語家がな、偶然、わてのことを調べてて、この節目に気づいたんや。

いやぁ~わては嬉しゅうてな、ちゅうのも、当然、ええ節目やから、これに関する落語会が催されると思って期待しとったんや。

所が、どこにもそんなイベントは開催されてないねん。

しかも、驚いたのは、上方も東京も、落語協会の関係者ですら、この記念すべき年に触れている様子がなかってん。

そこで、偶然、気付いてくれたんが、はらしょうや。

この男、なんでも、実話をネタにするドキュメンタリー落語なる芸をやっているそうで、今回の件を調べる為に、誓願寺まで来てくれたんや。

そしたら、そこで更に驚くことが起こったんや。

なんと、誓願寺の関係者が、この記念すべき年に気づいてなかってん!

そんなことあるんかいな!

わて、ここの元、住職やで、テンションだだ下がりやったで。

そやけど、これがきっかけになって、今の寺の関係者にも知ってもらったから、一気に話が盛り上がってな、この寺でイベントやりましょう!いうことになったんや。

しかも、寄席つむぎさんが協力してくれはることになってな、いやぁ~わて、テンションあがったがな。

ほんで、年が明けて、2024年の2月25日に「四百年前の噺を聞く」という落語会が実現したんや。

えっ、それやったら、401年記念になる?

ええねん、こんだけ長かったら、一年位は変わらへんやろ、そこ、ツッコむな、君、野暮やで。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

さて、当日の出演者は、三遊亭はらしょう、月亭天使、林家菊丸、の三名。

演目も、それぞれが「醒睡笑」にちなんだネタを披露してくれて、客席は大いに湧いたで。

はらしょうは、醒睡笑に出て来る小噺と、誓願寺の思い出を描いたドキュメンタリー落語。天使さんは、「平林」と「犬の無筆」、菊丸さんは「青菜」と、実に嬉しい演目のラインナップや。

当日は雨降って寒い日にもかかわらず、ぎょうさんのお客さんが来て笑ってくれてたで。

その中でも、やけに嬉しそうな顔しているお客さんがいたんやけど、聞いたら、はらしょうの、おかんグループと、京都演劇の愉快な仲間たちみたいや。

ちゅうのも、はらしょうは、落語家になる今から20年前に、京都で演劇をやってたそうでな、それも、誓願寺の、この同じ場所で芝居を公演したそうなんや。

その時も、おかんと演劇の愉快な仲間たちの何人かは来てくれたそうで、20年ぶりの成長を感じてくれたようや。

わては、客席の上の方から、ずっと見ててな、ほんまに、ええ、イベントになって良かったと、ちょっと泣きそうになったわ。

えっ、はらしょうに?

ちゃうちゃう、元和のわてのことが、令和によみがえって、ありがとうと思ったからや。

わてな、落語好きな人と落語の関係者に言いたいねんことがあるねん。

安楽案策伝の「醒睡笑」を忘れるな!

それを忘れるなんてな、エジソン忘れる位のことやで!

あっ、エジソン生まれるんは、わてより、もっとあとか。

わての書いた、醒睡笑には、まだまだおもろいネタがある。

令和の落語家に、もっとこれを落語で表現して行って欲しいもんやけど、400年に気付かん位、落語家は、ボーッとしとるもんが多いから、それは難しいかもしれへんな、わはははは。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

こうして、安楽案策伝は俺の前から姿を消した。

エッセイを書こうとしたが、本人の口から聞けて良かった。

しかし、よく喋る、明るいジジイだった。

俺も、あんな風に歳を取りたいたいものだ。

そういえば、「醒睡笑」は、安楽案策伝が、幼いころから、見聞きしたり読んだりした色んな面白い話を笑話集にしたというが、これって、ドキュメンタリー落語みたいなものではないのか?

記念すべきイベントを終えた俺は、安楽案策伝のことを考えるあまり、少しでも自分に繋がる部分を、無理矢理にでも探しているのであった。

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