2021年から始まった「落語と絵本のアニュアーレ」も2回目を迎え、ついに1月27日に二代目三題噺王を決定すべく決勝戦が天満天神繁昌亭で開催されました。決勝戦に駒を進めたのは、6名の若手噺家です。
厳正な審査の結果、二代目三題噺王の王冠は桂小鯛さんに授けられました。優秀賞には桂慶治朗さんが選出。今回、特別に設けられた笑福亭仁智賞には、桂ぽんぽ娘さんが選ばれます。
6名全員が熱演で、誰が優勝してもおかしくない状態だったんですよ。
さて、どのような三題噺が飛び出したのでしょうか。
「落語で笑い取れ!」と檄が飛ぶ
「三題噺王、決勝戦」が行われた1月27日は、記録的大寒波が到来し大阪でもうっすら雪が積もった数日後。この日も氷雨がぽつぽつと降る寒い日でした。冴え冴えとした空に三日月が浮かぶものの、繁昌亭の中は熱気に包まれています。
まず、総合プロデューサーで上方落語協会会長の笑福亭仁智師匠の挨拶があり、出演者全員が舞台上へ。出番を決めるクジを引きます。出演者の中で最もキャリアが長い森乃石松さんと最若手の桂三実さんが前に出てじゃんけんをします。
石松さんは三実さんに「じゃんけんで最初に出しがちなのは?」なんて質問をして、駆け引きを始めました。このやり取りが面白いのなんのって。少し緊張していた客席から笑みがこぼれます。仁智師匠からは、
「落語で笑いを取れ!」
なんて言われるほど。
じゃんけんの結果、三実さんからキャリア順にクジを引いていくことになります。三実さんはトップバッター、続いて引いた慶治郎さんは2番手。この流れであおばさんは3番になると思いきや、6番目に。小鯛さんは3番め、ぽんぽ娘さんは4番めに。
さあ残るは石松さんのクジだけです。引きまでもなく5番めなのですが、一応引きます。もしかすると、別の数字が出てくるかもしれません。うやうやしく石松さんは箱に手を入れます。つかんだ数字は、やっぱり5番でした。
これで全員の順番が決まり、いよいよ「落語と絵本のアニュアーレ、三題噺王決勝戦」のスタートです。
落語ならではの奇想天外なネタが飛び出した!
トップバッターは桂三実さん。小学生のケンタくんが一人で天王寺から池田まで「地下鉄」でおつかいをするお話です。池田のお祖母ちゃんの家に「ちょうつがい」を持っていくんですって。何でやねん!とツッコミたくなりますが、それには理由があって…。
途中、地下鉄御堂筋線の中で同級生のユキちゃんとバッタリ出会い、小学生2人の愉快な道中記が始まります。客席のお客さんたちも、一緒に電車に乗っているかのよう。その乗客の中に2人の「先生」であるカワイ先生を見つけ、お話は佳境へ。サゲではホッコリ。良い高座でした。
続いて桂慶治朗さん。舞台は「地下倉庫」から始まります。怪しげな骨董品の中から、30年以上前の「そうめん」が発見されます。実はこのそうめん、いくら食べてもなくならない無限そうめんだったのです。
食べ続けた男に起こる体の変化。これを治すためには外科手術が必要なのだそう。「執刀医」の尽力により男は回復するのですが、治っていない部分があって…。そうきたか!と膝を打つオチに、客席も大満足です。
さて、前半戦最後は桂小鯛さん。はなし画では三実さんと並んで応募作品が多かった小鯛さんのネタは、まるでハリウッド映画のような大スペクタクル落語だったんです。
場面が知事室だったり飛行機の操縦席だったり。かと思えば、西成のオッチャンたちが酒を飲んで楽しくワイワイしていたり。客席をまったく飽きさせません。息つく暇もないほど繰り返される場面転換は、やもすれば支離滅裂になりがち。しかし、小鯛さんの腕で最高の落語に仕上がりました。お題は「保証人・空中庭園・大きな穴」でした。
ハプニングがあったものの堂々と
中入り後に登場したのは、桂ぽんぽ娘さん。婚活中の息子とママとのやり取りから始まります。これが面白いの何のって、「野球ファン」の小ネタが盛りだくさん。次は何が飛び出すかワクワクが止まりませんでした。プロポーズをスカウトなんて言うんです。
この息子、彼女を食事に誘うのですが、出された料理が「カツレツ」でなかったことからフラれます。その後、舞台は有名なあの「商店街」に移り、まさかまさかの怒涛の展開に。客席はぽんぽ娘さんの勢いに押されて、笑いっぱなしです。
続いて森乃石松さんが高座へ。ここでハプニング。お題が書かれためくりが、あおばさんのものだったのです。お茶子さんが1枚多くめくっちゃったみたい。しかし、そんなハプニングは何のその、石松ワールドが繰り広げられます。
お題の「おばあちゃん・海岸通り・車いす」が良いバランスで織り交ぜられ、海岸通りのかき氷屋が舞台の奇想天外な噺は意外な方向に進みます。おばあちゃんが登場人物でも、決してほっこりさせない石松さんのセンス、とても好きです。
トリは桂あおばさん。マクラは短く、ささっとネタに入ります。どうやら舞台は飛行機の「コクピット」のよう。今日で定年退職をする機長と機長をねぎらう副機長が登場人物です。
ねぎらうといっても落語ですから、コテコテのやり取り。こんな副機長が実社会におったら大変やで、いや案外おるかも…そんなことを考えていると、飛行機はそろそろ目的地に。他のお題「魔法」や「運転手」も無理なく織り交ぜ、トホホなオチへ。曲者は副機長だけではなかったよう。
多くの人が経験する定年退職がテーマだった分、客席も身近に感じられたのではないでしょうか。
いよいよ審査発表!その前に…
全員の発表が終わったあと、審査員は別室で審査を行います。その間、「はなし画」の入選作品と佳作作品がスライドショーされます。
審査員でもある仁智師匠が会場に戻ってこられたら、入選作品を描いた2人への表彰式です。吉井乃有さんと奥井絢心さんが壇上へ。客席からは大きな拍手が贈られました。
さて、いよいよ緊張の審査発表です。仁智師匠に審査結果が手渡されます。気になるタイムオーバーでの失格者はゼロ。ほっと一安心。
まず発表されたのは優秀賞。桂慶治朗さんの名前が呼ばれると、慶治朗さんは飛び跳ねるように大きくガッツポーズ!良い笑顔でした。
続いて最優秀賞の発表です。桂小鯛さんの名前が仁智師匠から読み上げられます。表彰状を仁智師匠から手渡され、客席に向かって「有難うございました!」と大きな声でお礼を述べました。続けて「欲しいタイトルだったので、すごい気合を入れていました。これからもっともっと上がっていきたいです」とも。客席からは大きな拍手が贈られます。
これで終演かと思いきや、仁智師匠から特別に「笑福亭仁智賞」を贈りたいとのこと。栄えある特別賞に輝いたのは桂ぽんぽ娘さん。名前が告げられた瞬間、ぽんぽ娘さんは信じられないといった表情。その後、大きくガッツポーズ。仁智師匠は「ギャグセンスが良い」と評しました。
誰が受賞してもおかしくなかった三題噺王決勝戦。とても審査は難しかったといいます。来年も今から楽しみですね。
桂小鯛さんのコメント
終演後、小鯛さんからコメントをいただきました。昨年度は優秀賞を受賞した三題噺王、今回、満を持しての最優秀賞!どのようなお気持ちなのでしょうか。
「去年は2位でとても悔しい思いをしました。今年、アカンかったら、もう出ない気持ちでいたんですよ。今回はお題がバラバラで、場面転換を多くせざるを得ませんでした。でも、場面転換を自由自在にできるのが落語の強味だと思っているので、どう見せるか工夫して仕上げました。楽しんでもらえたら幸いです。いつか”このネタなら小鯛”といわれるような新作落語も作っていきたいです」
これからの小鯛さんも楽しみですね。
次回の「落語と絵本のアニュアーレ」は、今年9月に三題噺王の予選が開催されるとのこと。「はなし画」の公募は11月ごろだそうです。詳しいことが分かり次第、またお知らせしますね。