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道化の素質~日常ドキュメンタリー:三遊亭はらしょう

三遊亭はらしょう

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道化の素質

一体、いつから自分がお笑いというものに目覚めたのかを遡って行くと、最初の記憶は、四、五歳の頃、保育園の時分である。

運動会、お遊戯会、遠足など、写真を撮る機会があれば、事あるごとにアゴを突き出す表情をしていた。ドリフターズ、とりわけ、志村けんの影響であろう。
だが、この記憶は、のちに振り返って写真を見た時に甦ったことで、その瞬間瞬間でお笑いを演じていたという意識は残ってない。

俺の一番古い記憶でお笑いをやったのを明確に覚えているのは、小学校の二年か、三年の頃である。
何かの授業で班ごとのグループ分けをした時のこと、ホッチキスを使うことになった。
俺は、隣の席にいた、長野、という友達をなぜか笑わせたくなった。
長野とはよく喋っていたから、きっと面白がってくれるだろう。そう確信した俺は、
「ちょっと、おれにも、ホッチョキス使わせて~」
と言った。
「えっ、原田くん(※はらしょうさんの本名)、何・・・?」
長野はポカンと大きく口を開けた。
つまり、ウケなかった訳だ。俺は、しまった、と思ったが後の祭り。普通は、これで時が流れて終わりなのだが、長野は突然、
「ワハハハー!!」
と爆笑した。
「原田くん、もっかい言って~!」
そうせがまれたので俺は気を良くして、今度は自信満々に、
「ホッチョキス!」
と、叫ぶように言った。
「くぅ~!もっかい言って~!」
長野は、かなり気に入っているようだ。
「なになに~どうしたの~?」
二人の異様な盛り上がりに、同じ班のあとの数人が身を乗り出してきた。
調子に乗った俺は、
「ホッチョキス!ホッチョキス!ホッチョキス!」
と連呼した。
やったー!初めて味わう気持ちのいい感覚だった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

だが、このあと長野が言った一言で、すべての流れが変わった。
「こいつ、頭が弱いねん」
どういう意味なのか全く分からなかった。
続けて長野は言った。
「原田くんは、ホッチキス、って言えないねん」
いや、ちょっと待って長野。俺が、わざと変な言い方をしたのを分かってないのか?
「ねぇ、もっかい言ってみて!」
「もっかい!」
「もっかい!」
「もっかい!」
コールが鳴り始めた。
どうしよう。
ホッチキス、と訂正すれば、俺がわざと言ったことは伝わる。
だが、先ほどまでの盛り上がりはなくなる。
かと言って、このままだと、頭が弱いと思われる。
俺は道化を続けるか葛藤した。

「ホッチョキス!」
「ガハハハハ~!」

結局、俺は笑わせることを選んだ。
振り返れば、あの頃、テレビの話題をする時にも、志村けんが面白かったではなく、志村けんはアホだった、と言っていた。
つまり、この年頃のお笑いの捉え方は、アホ=アホ、なのだ。
アホなことをしている、という概念が存在しないのだ。
結局、頭が弱いままになった俺は、このあともずっと道化を続けることを選んだ。

「アホやな~吉本入り~!」
は関西でイチビリ(調子乗り)の子供が大人からよく言われるセリフだが、その頃、俺もしょっちゅう言われた。
大人たちは、テレビで観る芸人が本物のアホだとは思ってないが、子供が誰かを笑わせようと意識的に道化を演じることなんてないと思い込んでいたかもしれない。

俺みたいな子供は、他にもきっと沢山いただろう。
だが、その多くが、集団生活の中で、道化の素質を捨てて行くのだ。

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