落語家として活動を始める際、最初に覚えるのは着物の着方と畳み方。それを師匠である笑福亭鶴光師匠に教わった若き日の笑福亭里光師匠。初めてのネタ『寿限無』のお稽古も無事(?)に済みました。
さあいよいよ、他の前座さんと混じって前座のもう一つの大切な仕事「太鼓」のお稽古です。どんな出来事があったのでしょうか。笑福亭里光師匠のちょっと胃が痛くなる自叙伝第11回のスタートです。お楽しみください!
太鼓の稽古会
こんにちは。笑福亭里光です。
本年も宜しくお願い申し上げます。
新年早々の緊急事態宣言・・・寄席つむぎ落語会も延期になりました。
楽しみにして下さってた方々、申し訳ございません。
振り替え公演は3月20日(土)19時開演になりましたので宜しくお願いいたします。
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さて、僕が前座として「楽屋入り」する前に覚える最後の項目が太鼓でした。
覚えるといっても入ってすぐ太鼓を触らせてくれる訳ではないし、また協会員全部の出囃子が覚えられる訳でもない。
太鼓の稽古会も定期的に開かれてますし、最悪全く出来なくても問題はない。ただまぁ基本的なことは覚えて入った方が体裁は良い。
基本的なことと書きましたが、具体的には一番太鼓。これは楽屋に入って見習い(僕の時は1カ月間)が終わるとすぐ出番が回ってきます。
要は一番下っ端が叩くということです。
聴かれたことございますか、一番太鼓?これは開場と同時に打つ太鼓です。
ですからいつも開演ギリギリにお越しになるお客様は聞く機会がないかもしれません。
これは大太鼓を長バチで打つ。大太鼓とはお祭りや盆踊り等で打つ、あれです。
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あ、寄席の太鼓は特殊でしてね。
大太鼓と締め太鼓(能や長唄、歌舞伎の舞踊等で出てくるやつです)の2つを同時に叩く。
僕ら寄席芸人はそれが普通なんですが、他の芸能の方はこの2つを同時に叩くことはないらしい。
和太鼓奏者の方に指摘されて初めて気付きました。そういう意味で特殊。
ただこの一番太鼓は、大太鼓のみなんです。
鶴光からは一番太鼓が入ったカセットテープを貰いました。
ただそんなんだけで叩けるようになる訳がない。
幸いなことにタイミング良く太鼓の稽古会があったようで、そこへ見学に行くことになりました。
鶴光と仲の良い師匠が居るんですが、そのお弟子さんが上の方(前座としての芸歴が)でいるので、その人(K先輩としましょう)に君のことは言ってあるから頼って行け!と。
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太鼓の稽古会は寄席で行われます。もちろんお客様がいらっしゃる前に。
開場が11時半ですから、10時頃からやる。9時45分くらいに浅草演芸ホールの前に居るように言われました。
まず立て前座(前座のトップ、前座を束ねる)に紹介してもらってから、稽古会を見学するという段取りのようです。
その日に初めて前座全員と顔を合わせる。緊張しましたが「今日は頼れる人がいる」と思うと多少は気が楽でした。
ところが・・そのK先輩が来ない!
我々の世界は立て前座が結構権限を持ってまして、立て前座を通さないと駄目なことが多々あるんです。立て前座の許可なく勝手に見学なんかできない。
ましてやその日僕が見学することはK先輩以外誰も知らない。
ボヤボヤしてたら10時になってしまう!?
仕方がないので、他の先輩(P先輩としましょう)を捕まえて事情を話し、立て前座に紹介してもらうことになりました。
当時の立て前座は、三遊亭小遊三師匠のお弟子さんの遊だち兄さん(今の遊馬師匠)でした。
厳しい先輩でね、体も大きいし怖かった。
「あのぅ兄さん、今日見学に来た里光さんです」。
楽屋の隅で何やら書き物をしていた遊だち兄さんの背中にP先輩が言いました。
僕のことも全く聞いてないしK先輩も来ないし機嫌悪かったんでしょうね、くるっと振り向いた遊だち兄さんが鬼の形相で一言。
「はぁぁぁ!!?」
後で分かったんですが、K先輩は遅刻の常習犯。この日も稽古会の終わる頃に現れて、遊だち兄さんにこっ酷く叱られておりました。