東成区民センターで開催されている「ひむがし寄席」をご存知でしょうか?実は20年以上歴史のある地域寄席です。低価格で落語や諸芸を楽しめることもあり、地域の方に愛され続けています。
今回は「ひむがし寄席」について桂壱之輔師匠にお話をうかがいました。第1回目からの出演者で、現在もメイン出演者です。長い歴史の中、どのようなことがあったのでしょうか。2019年に急逝された、もう一人の「ひむがし寄席」メイン出演者の桂三金師匠との思い出を交えてうかがいました。
料理は本当にご自分のため
――ひむがし寄席についてうかがう前に、壱之輔師匠は最近Twitterで手料理の写真がプチバズりしておられますね。あれはどういう経緯で始められたのですか?
元々、料理が好きなんです。去年、繁昌亭も一時休館して何もすることがなくなった時に、何か続けられることでSNSをと考えて始めました。
――あの手料理を振る舞ってもらえる人がうらやましい…。
一人で食べてんで。
――えー?!誰かいるでしょ?彼女か彼氏か。
どっちもおらへんわ!
――失礼しました。てっきり「匂わせ」の類かと。私は彼氏がいるのだと思っていました。
彼女いるんでしょ?とはよく言われるんですが、彼氏はあまり言われたことないなぁ(苦笑)。本当に一人で食べてますから。私はそんなにモテませんって。ちなみに女性が好きです。
――モテないとは意外です。モテそうなのに。モテないといえば、ひむがし寄席のもう一人の立役者・桂三金師と私が最後にお会いして話した内容が、「俺がモテない理由」でした。鶴橋の喫茶店で、パフェを一気飲みされておられた思い出があります。
モテんことないやろ、あの兄さん。誰にでも優しいし、誰ともすぐ仲良くなる。嫌いと言う人に会ったことがない。
――そのころ、私の病状が悪化しつつある時だったので、ご自分を下げて笑いを取ろうとしてくださっていたのかも。
そういう気を遣う人やな、三金兄さんは。
三金師の気遣いから始まった「ひむがし寄席」
三金兄さんはほんまに気遣いの人でした。この気遣いで、私は随分成長させてもらったと思います。ひむがし寄席は、東成区民センターの館長さんが三金兄さんにお声をかけてくださってもので。私が東成区出身だというので、一緒にやろうと声をかけていただいたんです。年季明けした次の年、2000年のことだったと記憶しています。
――最初から現在のような年2回だったのでしょうか?
いえ、2007年に会場の東成区民センターが建て替えになるまで、毎月開催でした。
――毎月だとネタが大変だったのではないでしょうか?同じものをかけるわけにはいかないですし。
覚えてはやってを繰り返していました。年季明けしてすぐですから、もう必死です。このころに覚えた『代書屋』『皿屋敷』は今も高座にかけています。
――三代目の得意ネタですね。
その三代目春団治師匠につけていただきました。私の財産です。稽古をつけていただいたころの「ひむがし寄席」は和室が会場で、50人も入ればいっぱいでした。
――三代目直伝のネタをかけているのに、もったいない。
まあ、50人も入ったことはないのですが(笑)。毎回「つばなれ」するかハラハラしていました。
会場でお爺さんが「将棋指し終わるまで待ってんか」
――今の若い子は「つばなれ」を知らないようですね。ひとつふたつ…と「ここのつ」まで「つ」が付いて、十から「つ」はつかないから「つばなれ」。
繁昌亭ができるまで不遇の時代でしたね。ひむがし寄席も「つばなれ」するかしないかなのに、打ち上げで吞んじゃって全員が赤字なんてことがしょっちゅうでした。
――地域寄席あるあるですね(笑)。3~4時まで呑んで、終電がないからタクシーで帰っちゃう。
のんきな時代ですよ。20代だから出来てたんやろな。会場も自分たちで設営していましたし。ある時なんか、会場の和室に入ったらおじいちゃんが将棋を指しているんです。「指し終わるまで待ってんか」って(笑)。
――のんきな(笑)。そんな「ひむがし寄席」が東成区民センターの建て替えでいったん終了して、2010年から再スタート。
そうそう。また三金兄さんが一緒にやろうと声をかけてくださって。今度の東成区民センターでの会場は、209人入るホールなんです。
――50人できゅうきゅうの和室から、いきなりランクアップですね……。
さすがに毎月209人も入れられないので、年2回になりました。最初の1~2年は三金兄さんと二人でやっていたのですが、これだと出演者の2枠が固定されカラーが同じになるので、夏は三金兄さん冬は私の担当となりました。
三金師の「遺産」を弟子の笑金さんへ
――年に2回になってから10年ほど経ちますが、変化はあるでしょうか?
去年はコロナで夏は50名限定、冬は開催ができませんでした。それ以上に三金兄さんの急逝です。2019年11月10日、私は東成区民まつりの司会を勤めさせていただいていたんです。これも三金兄さんから紹介していただいた仕事で。仕事が終わって携帯をふと見ると、上方落語協会からメールが入っていたんです。
――三金師から紹介された仕事のあとに訃報ですか……。
悲しいのはもちろんなんですが、とても不思議な感覚になって……。
――つい先日まで元気な人だったのに……。
三金兄さんは本当に気遣いの人で、年2回でバラバラにやろうというのも気遣いなんです。先輩の自分と一緒だと気を遣うだろうと。この気遣いが本当に勉強になりました。これをお返しできればと考えています。
――え?どなたに?
お弟子さんの笑金くんに。これから、夏のひむがし寄席は彼に担当してもらおうと考えています。
――ええーー!!彼、まだ入門4年目かそこらじゃないですか?
私がひむがし寄席に声をかけてもらったキャリアとほぼ同じです。若いからなんとかなりますって。
――壱之輔師匠もあの頃があったから今があると?
そうですね。私はひむがし寄席のおかげで、色んなネタを覚えられて色んな人と交流できました。ひむがし寄席は三金兄さんの遺産なんです。笑金くんにも私が三金兄さんからいただいたものを、経験してもらいたいです。
東成区民センターでお待ちしています!
今回はじっくり桂壱之輔師匠にお話をうかがいました。私事ですが、十数年ぶりにお会いできたのがとても嬉しかったです。若いころと同じように気さくに色々とお話をしていただき、40代になったことを忘れそうでした。
ひむがし寄席は、東成区民センターで3月30日に開催されます。お近くの方はもちろんのこと、リーズナブルな価格ですので遠方の方もぜひ!
ひむがし寄席
日時:3月30日(火)19時開演、18時半開場
会場:東成区民センター(大阪市東成区大今里西3-2-17 6階)
木戸銭:前売り1000円、当日1500円(中学生以下:前売り500円、当日800円)
出演者:笑福亭鶴太、桂紋四郎、桂華紋、桂壱之輔
お問い合わせ:06-6972-0771(大阪市コミュニティ協会東成区支部協議会)