若手噺家グランプリ特集、出場者一人目のインタビューは、笑福亭智丸さんから。笑福亭仁智師匠に平成25年4月1日に入門され、今年9年目です。
文学全般を好み、詩も書いておられるところから、「上方落語文芸派」のキャッチコピーが付けられています。
さて、この文芸派の笑福亭智丸さんの意気込みはどのようなものでしょうか。お楽しみください!
蕎麦を打つのでなく、蕎麦で打つ
――いよいよ、若手噺家グランプリの予選が始まりますね。智丸さんは去年は出場されなかったようですが、思うところがあったのでしょうか?
いえ、学校寄席とスケジュールが重なっていて、出場できませんでした。
――仕事なら仕方ないですね。それに学校寄席なら、勉強にもなりますし。
いえ、学校寄席といっても前説というか、落語の説明をする際にボードを上げる係だったんです……。一言も喋っていません。
――え……。
一昨年出させて頂いた時、正直感触も悪くなく良い経験になりました。今年はようやく出場できます。新作で挑戦してみます。
――おお!楽しみですね。智丸さんは新作落語を作る際、どこから作られますか?
僕は場面から作ります。例えば、『蕎麦道拷問』って新作落語があるんですが、蕎麦を打つんじゃなくて蕎麦で打つんです。ピシーッピシーッっと蕎麦で打つんです。「蕎麦を好きになれ!」って。これが描きたくて作りました。
――めっちゃおもろいやないですか。今聞いただけでも、全部見たくなりますもん。でも、これだけだと5分ぐらいで終わりそう。
僕は場面から作って、前後を膨らませていくんです。最初から10分以上になります。それを前座用に8分ほどに直していくんです。
――どんどん研いでいく形ですね。良いね、職人だ。
仁智師匠の追っかけ時代
――新作落語を作る際に気を付けていることはありますか?
僕は師匠の影響を大きく受けているので、ひきずられ過ぎないように気を付けています。現代詩の発想のようなシュールな着想を大事にできればと思います。
――師匠に引っ張られるのは仕方ないと思いますよ。そもそも、仁智師匠に弟子入りしようと思ったきっかけは?
高校生の時に繁昌亭が出来て、初めて落語を生で見た時、うちの師匠が出番だったんです。面白かった!笑いのセンスというか、笑いの波長が合ったんです。大喜利の司会をされていても、いちいちセンスが良いんです。それから追っかけが始まりました。「笑いのタニマチ」はよく行っていたなぁ。
――それからすぐ弟子入りを?
いえ、大学に進学して落語をあまりしない落研に入部。大阪芸術大学せいもあるのか、みんな「プロになんねん」という硬派な勢いがあり、得難い経験でした。学生のころ、繁昌亭のアルバイトもしていたんです。その時、天使姉さんも一緒だったんですよ。福田さん。
――おお!なんかそういう出会いって良いですね。ということは、そのころからプロにはなろうと思っておられたんですね。
高校3年生のころから仁智師匠の弟子になろうと思っていました。
――それから、だいぶ経ってから入門されていますよね。
大学院の修士を卒業してから入門のお願いに行きました。
詩人:疋田龍乃介として
――えらい遠回りしましたね。その間、何をしていたんですか?
詩を書いていました。落語をテーマにした詩も書いています。本名の疋田龍乃介名義で詩集『歯車vs丙午』も思潮社から出版していただきました。中原中也賞や萩原朔太郎とをるもう賞候補にもなったんです。
――萩原朔太郎賞ってすごいじゃないですか。私でも知ってる賞ですよ。
いえ、萩原朔太郎とをるもう賞です。別なんです。すみません……。
――いえ、謝らないでください。私が知らなかっただけで。ということは、大阪芸術大学でも造形美術ではなかったんですね。
はい、文芸学科です。中学時代から中島らもさんが好きで、昔から芸大に興味を持ってはいました。
――失礼ですが、智丸さんは関西大倉高等学校出身ですよね。進学校から行く大学ちゃいますよ。
競争に身を置くのがしんどくなって、自分のペースで生きていこうと思い進路を選びました。
手札の多さが強み
――智丸さんのセールスポイントは何だと思いますか?
この人今日は何するんだろ、みたいなわくわく関心を持っていただける噺家になりたいというのはあります。古典も新作もやってますので、自分で言うのもなんですが笑いのパターンの手札は多い方かもしれません。もちろん場所によりますけど、基本的にはどんどん新ネタで勝負していきます。
――手札の多さが強み?
良くも悪くも芸術家気質というか、ソフトとハードがあると、ハードに興味持てなくて、ソフトにばかり気持ちが向いちゃうんです。肝心のゲーム機のことは考えずに、ゲームソフト作りに精を出してしまうというか。コロナ禍で、配信や宣伝など、ハードが強くないと生き残れない時代が来てることを実感してます。なので、せめていろんなソフトを揃えていこうかと。
――良いね。智丸さんの思う落語の面白さも教えてください。
一人で完結するところでしょうか。フラというか、キャラというか、演者が中心にあって。例えば、落語を見に行き出した頃、晩年の露の五郎兵衛師匠が『浮世床』をされていたんです。登場人物がボケてるんですけど、五郎兵衛師匠がマジでボケてんのかネタなのか分からない雰囲気があって、今思えばそれが超絶技巧なんですけど、高校時代は涙流して笑いました。
――それがフラですね。
ネタや技術以前の人間の魅力と言いますか、これが落語の最重要ポイントだと思うので、年齢と共に少しずつ目指していければ良いなと思います。
――応援しています。
うちの師匠もフラがすごいんですよ。往年の仁鶴師匠の影を感じます。なんというか、極端な話ですが、何を言ったか聞き取れないようなことがあったとしても、面白い空気間で爆笑が起きる。すごいなと思います
おもろいこと重視!
――智丸さんならではの売り方ってあると思いますよ。去年から3回緊急事態宣言がありましたが、その間は何をされていましたか?YouTubeを始められた方も多かったですね。
YouTubeをやろうかなと意気込んだこともあるんですけど、ソフトに追われてしまうんです。落語を覚える量が増えて、新作もたくさん作ってしまって。覚える作業も嫌いやなかったんです。でも、売り方がおろそかになりました。ほんまは、もっとやらなあかんのですけど。
――新作は何本作られましたか?
45本です。どうしようもないのも中にはありますが。
――すごいじゃないですか。
思いついたらメモをして、落語にして。あまり縛られない新作落語を作っています。この間もうんこのネタをやったんです。テレビでやる機会はないかも知れませんが、面白さ重視で。マーケティングから入るんじゃなくて、おもろいことを大切にしたいです。そこはこだわっているところで。
――良いと思いますよ。それが智丸さんの強みになると思います。
ぼーっと妄想した、にやにや気持ち悪いやつですが(笑)。
――最後に若手噺家グランプリを楽しみにされておられる方にメッセージをお願いします。
一体感が生まれるイベントがあまりないので、勝ち負けはもちろんですけど、落語会として面白いと思います。笑っていただければみんなやりやすくなりますし、ただただ楽しんでいただければと思います。それが一番僕らも有難いです。
天満天神繁昌亭でお待ちしています!
今回はじっくり笑福亭智丸さんにお話をうかがいました。ご自身ではフラがよくわからないとおっしゃっておられましたが、なかなか面白い青年でした。2メートル離れて眺めるのが楽しいだろうなと。それって「フラ」ですよね。
笑福亭智丸さんが出場される「第7回若手噺家グランプリ」は天満天神繁昌亭で開催されます。チケットはもう販売されていますので、お買い忘れのないよう。智丸さんの出番は、7月13日です!
第7回上方落語若手噺家グランプリ2021予選会
▲配信もあります
《予選第1夜》
日時:7月6日(火)17時30分(開場17時)
出演:桂小鯛「親子酒」/月亭天使「H亭の怪談」/桂華紋「八五郎坊主」/桂紋四郎「つる」/桂あおば「キザ男」/桂小留「壺算」/桂弥っこ「向う付け」/露の棗「運命の人」/笑福亭鶴太「平林」
*出演順は当日決定します。
《予選第2夜》
日時:7月13日(火)17時30分(開場17時)
出演:笑福亭喬介「寄合酒」/笑福亭生寿「鹿政談」/林家染吉「壺算」/桂鞠輔「正月丁稚」/桂恩狸「悋気の独楽」/露の瑞「平の陰」/笑福亭智丸「怪談が止まらない」/桂九ノ一「池田の猪買い」/桂笑金「ミスター・スメルバズーカ」
*出演順は当日決定します。
《予選第3夜》
日時:7月20日(火)17時30分(開場17時)
出演:露の団姫「残念さん」/桂そうば「代書」/桂咲之輔「皿屋敷」/露の眞「こぶ弁慶」/桂団治郎「七段目」/桂三実「師匠!」/月亭遊真「真田小僧」/桂おとめ「セールスウーマン」/桂二豆「悋気の独楽」
*出演順は当日決定します。
《予選第4夜》
日時:7月27日(火)17時30分(開場17時)
出演:桂ちきん「押し入れのラベンダー」/露の紫「狼講釈」/桂三語「二人癖」/桂二葉「天狗さし」/林家染八「八五郎坊主」/桂文五郎「七段目」/月亭秀都「茶の湯」/笑福亭笑利「千鳥の香炉」/露の新幸「つる」/月亭希遊「巻き舌職人」
*出演順は当日決定します。
会場:天満天神繁昌亭(〒530-0041 大阪府大阪市北区天神橋2丁目1−34)
木戸銭:前売1500円、当日2000円
お問い合わせ:06-6352-4874(天満天神繁昌亭)