ふくよかな体に低い声。若手女流の中でひときわ存在感を放つ露の棗さん。彼女も若手噺家グランプリに挑戦します。普段は古典を手掛けている彼女が新作での挑戦ですので、とても気になりますよね。
今回はその辺りを中心に、じっくりお話をうかがいました。女流ならではの悩みよりも、都一門だからこその悩みがある?お楽しみください!
運命の出会い(笑)
――今回は新作で若手噺家グランプリに挑戦ですが、普段から新作は作られるのですか?
今まで2本作りました。例えば「恨みつらみがあって出てきたんや」「いや、ハラミツラミが食いたくて出てきたんや」というギャグが思い浮かんだんです。それで作る。でも、このギャグは作品の中で使わなかったんです(笑)。設定だけ残りました。
――焼肉屋が舞台の落語で?
そうです。ライバル店の評判を落とすために幽霊の噂を流すというもので。今回若手噺家グランプリでかける新作落語は、少女漫画を読み過ぎて少女漫画的な運命の出会いを信じている女性の話です。自分がモデルです(笑)。
――私も運命の出会いを信じるクチです(笑)。実は棗さんとの出会いも運命だと私は感じているんです。棗さんはハロー!プロジェクトがお好きなのだそうで。
そうです。特に℃-uteが好きなんです。ダンスグループというのに惹かれます。
――私もハロー!プロジェクトが大好きで。最近では、つばきファクトリーがお気に入りで。
私もなんです!
――ね、運命でしょ。
期待される女流になれない自分
――そんなこんなで、以前から棗さんとお話してみたかったんです。女流ならではのやりにくさみたいなお話もお聞かせいただこうかと。
女流ならではのやりにくさというより、都一門だから期待されるものが出来ないつらさが……。うちの師匠は女性が出てきて情のある噺を得意としています。だから私にもそれを求められているような気がしているのですが、私は声が低くて……。
――女性なのに女性っぽくない?
そうなんです。男性の方が意識しなくても、逆に女性は描けると思います。違うから描けるというか。私は女性だからこそ、女性について深く掘り下げることがなかったんです。自分のニンでやったら、女性らしくなりませんし。
――棗さん、女性らしい人に見えますが。
いえ、そんな……。やっぱり、声が低いのが「っぽく」ならないのかと。以前、「女性で前座やったら、もっと元気に華やかに」と言われたことがあります。この時、何も言えませんでした。あれこれ言われるのは、私のスタイルがまだ確立していないからで……。
――まだまだこれからですよ。入門して8年なんですし。
入門のきっかけとなった噺に挑戦したい
――これから10年目に向けて、何か取り組みたいことはありますか?
『船弁慶』に挑戦したいと考えています。師匠都との出会いの噺なんです。友人が笑福亭鶴瓶師匠が好きで、一緒に落語会に行って、その時、うちの師匠がかけておられたネタが『船弁慶』でした。もう面白くて面白くて。特に「雷のお松」のくだりが息ができないほど。
――そんなネタに出会うと、プロになるしかなくなりますね。
それからうちの師匠の追っかけです(笑)。『船弁慶』がきっかけで入門したので、記念にやりたいなと考えています。もううちの師匠には「やりたいです」と伝えてあるんです。私では爆笑させられないと思うので、違うアプローチで取り組んでみようと。
――それも楽しみですね。『船弁慶』以外で、やってみたいネタはありますか?
『青菜』です。うちの師匠は母親と娘でやっているのですが、私は女性の描写が苦手なのであえて挑戦していみたいと。やっぱり、女性は気恥ずかしさがあるんです。でも、女性らしくない自分だからこそ、学生のころ落研時代に『禁酒関所』をやったことがあるんです。勇気がいりましたが、いい経験でした。
落語の「竹馬の友」と切磋琢磨
――いっそのこと『勘定板』にも挑戦してみてほしいですね。やっぱり、女性には難しい?
うちの師匠都は、汚い噺やいやらしい噺に関して、「照れがあったらすべるけど、照れずにやれるならやってもええ」と言っておられます。構えているうちは、できないかもしれません。でも、頑張ります。
――小さな勉強会で何度かかけてみるのもアリですね。そんな会は持っておられませんか?
逍遥会という若手落語研鑽会を年に4回開催しています。関大落研OBOGの桂小留兄さんと私、月亭秀都さん、月亭遊真さんの4人で。秀都さんは学生時代から同期です。今も同期で良い仲間です。
――いわば落語の「竹馬の友」と切磋琢磨ですね。良い。関大OBOGの会なら、吹田で開催ですか?
いえ、今は高津宮亭で開催しています。いずれ良い会場が見つかったら、吹田でも開催したいと考えています。アットホームでゆるい会です。地域寄席みたいに愛されたら嬉しいなぁ。学生時代の仲間と、これからも一緒に伸びていきたいです。
後輩がライバルの方がキツい
――話を若手噺家グランプリにもどしますが、棗さんにとってどんなイベントでしょうか?
後輩がライバルになるキツいイベントです。今まで本気で決勝に残ると思っていなかったのですが、昨年度、同じ日に出演した九ノ一くんが決勝進出して悔しかったんです。やっぱり、後輩に抜かれると……。
――先輩がライバルなのは?
良い刺激になります。まだ「後輩」なので気楽な部分はあります。自分が15年目になって追われるばかりの立場になったら、そうも言っていられないのでしょうが。後輩がライバルの方がキツいです。
――普段かけておられる古典でなく新作で挑戦というのは、何か意味があるのでしょうか?
普段は前座ばかりで、こういうネタがかけられないんです。私がこういうことも出来るというのを見ていただきたいと思って、新作で挑戦しました。新たな切り口を見てください。
――楽しみですね。私は棗さんの古典しか見たことがないので。最後に若手噺家グランプリを楽しみにしておられる方にメッセージをお願いします。
楽屋はピリついていますが、お客さんにはコロナの憂さを晴らすようにたくさん笑ってほしいです。2年分笑ってくださいね。お待ちしています。
天満天神繁昌亭でお待ちしています!
今回はじっくり露の棗さんにお話をうかがいました。上品な物腰で、私よりも一回り年下なのに、彼女と話していると背筋が伸びます。気遣いが言葉の端々から感じられ、とても女性らしい人とも感じました。ご自身で思うよりも「女らしい」女性です。
露の棗さんは、7月6日(火)の予選第1夜にご出演されます。応援にかけつけてくださいね。
第7回上方落語若手噺家グランプリ2021予選会
▲配信もあります
《予選第1夜》
日時:7月6日(火)17時30分(開場17時)
出演:桂小鯛「親子酒」/月亭天使「H亭の怪談」/桂華紋「八五郎坊主」/桂紋四郎「つる」/桂あおば「キザ男」/桂小留「壺算」/桂弥っこ「向う付け」/露の棗「運命の人」/笑福亭鶴太「平林」
*出演順は当日決定します。
《予選第2夜》
日時:7月13日(火)17時30分(開場17時)
出演:笑福亭喬介「寄合酒」/笑福亭生寿「鹿政談」/林家染吉「壺算」/桂鞠輔「正月丁稚」/桂恩狸「悋気の独楽」/露の瑞「平の陰」/笑福亭智丸「怪談が止まらない」/桂九ノ一「池田の猪買い」/桂笑金「ミスター・スメルバズーカ」
*出演順は当日決定します。
《予選第3夜》
日時:7月20日(火)17時30分(開場17時)
出演:露の団姫「残念さん」/桂そうば「代書」/桂咲之輔「皿屋敷」/露の眞「こぶ弁慶」/桂団治郎「七段目」/桂三実「師匠!」/月亭遊真「真田小僧」/桂おとめ「セールスウーマン」/桂二豆「悋気の独楽」
*出演順は当日決定します。
《予選第4夜》
日時:7月27日(火)17時30分(開場17時)
出演:桂ちきん「押し入れのラベンダー」/露の紫「狼講釈」/桂三語「二人癖」/桂二葉「天狗さし」/林家染八「八五郎坊主」/桂文五郎「七段目」/月亭秀都「茶の湯」/笑福亭笑利「千鳥の香炉」/露の新幸「つる」/月亭希遊「巻き舌職人」
*出演順は当日決定します。
会場:天満天神繁昌亭(〒530-0041 大阪府大阪市北区天神橋2丁目1−34)
木戸銭:前売1500円、当日2000円
お問い合わせ:06-6352-4874(天満天神繁昌亭)