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【追悼】①勝手に心臓を止めたアホ~林家市楼師匠と共に過ごした日々:ふじかわ陽子

ふじかわ陽子

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令和4年11月14日に林家市楼師匠が極楽座へ出演のため、旅立たれました。享年42歳。

上方講談師だった寄席つむぎ代表のふじかわ陽子は林家市楼師と同期で、芸人時代から今まで長い間親しくさせていただいています。ただ、令和2年12月に何度目か分からない大げんかをした後、交流が途絶えていました。それでもいつものように時間が経てば、「なんしとん?」とどちらかが電話をかけて仲直りできると。それが叶わないままの永訣。後悔ばかりが残ります。

少し思い出話を聞いていただけないでしょうか。思い出を不定期に掲載させていただきます。

なお、この記事では林家市楼師匠を友人として描きたいため、敬称を「くん」とさせていただきます。他、登場する芸人さんたちも、ふじかわ陽子が普段使用している敬称にさせてください。

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勝手に心臓を止めたアホ

市楼くんと私との付き合いは長い。初めて会ったのは平成13年9月。初対面の時は私が講談師で、市楼くんは噺家前座見習い。それから21年、なんだかんだと付かず離れずの仲だ。

同じ演芸でもジャンルが違うため、良い刺激を与えあう間柄だったと思う。ケンカもよくした。それでも、顔を突き合わし酒を酌み交わせばどうにでもなっていた。他ならない同期だから。

最後に同じ高座へ上がったのは、平成19年10月に開催された「東西(仮)名人会」だった(※記憶違い、記事最後に訂正あり)。会場はTORIIHALL、出演は東京から一龍斎貞橘兄さんと神田春陽兄さん、大阪からは私と市楼くん、旭堂南龍(当時・南青)くんの5人。30人ほどご来場いただいた。楽しかったけれど、この時には既に私の体調は良くなかった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

平成19年11月、私は抑うつ状態と不眠が酷く、休養生活に入ることになる。今だからいうが、精神面だけでなく内臓も良くない。市楼くんは「絶対、帰ってこいよ」と何度も何度も言ってくれた。その後も何度も何度も電話をくれ、私の体調の良い時は飲みにつれていってくれることもあった。

一見、麗しい友情に見えるが、実際のところはそんなもんじゃない。とにかく市楼くんは酒癖が悪く、どっちが介護しているか分からん状態。なにより困ったのが、泥酔した状態で電話をかけてくることだ。説教を交えたクソな内容を一方的に喋りまくり、ガチャ切り。通称「クソ電」だ。

このクソ電は、市楼くんの師匠である染語楼師匠が亡くなられた平成17年に始まり、現在まで連綿と続く伝統のあるもの。初代被害者は、何を隠そう私である。最近は対象者が増え、各々が受ける被害は薄れていたと聞いている。私への攻撃が少なくなったのは、皆様のおかげです。有難うございます。

平成16年彦八まつりでの一コマ、スポーツチャンバラ出場のために仮装する市楼師。右手に持っているのは当然酒(クリックで拡大)

平成30年2月のことだったと思う。療養中の私へ、いつものように市楼くんはクソ電をかけてきた。いつものように市楼くんは暴言を吐き、いつものように私は「あー、はいはい」と流すはずだった。でも、その日は流せなかった。それは市楼くんがこう言ったからだ。

「オマエ、いつまでもサボっとったらアカンぞ」

現在の私からは想像もつかないだろうが、当時の私の体調はどん底で髪の毛はどんどん抜け落ち頭皮が見えるほど。視野もどんどん欠けいき、瞳の位置が中央に寄っていっていた。呼吸が苦しく歩くこともままならず、狭小住宅に住んでいる筈なのに玄関から自室に行くまで10分ほどかかる。何も出来ない寝たきり状態。かろうじて食事と排泄は自力でできていた。これを「サボっている」と評されるのはたまったもんじゃない。だから叫んだ。

「じゃあ、代わってんか!」

つらくてたまらない日々を分かってほしい、そんな想いを込めた叫びだった。私の苦しみを受け止め市楼くんは謝罪するかと思いきや、何と怒鳴り返してきたのだ。

「ああ、分かった。全部持ってこい!オレが引き受けたるわ!」

この言葉通り市楼くんは、ほんまに引き受けて逝ってしまった。心臓が悪いのは私や。なんでオマエが心臓止めとんねん。ほんまアホやろ。ボケが。

勝手に人のモンを持ってったらアカンってことを知らん男だった。

はよ返してくれ。そんで、帰ってきてくれ。

つづく

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修正とお詫び

東西講談(仮)名人会が開催されたのは10月とばかり思っていましたが、11月2日(金)とのこと。

また市楼師は出番でなく、手伝いに来てくださっていたよう。南龍師(当時、南青)は前座出演です。

ここに修正とお詫びをいたします。大変申し訳ございませんでした。

チラシデザインは友人のTさん(クリックで拡大)