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【取材記事】第95回ヨセゲー「落語諸国巡り」レポート

三遊亭遊喜

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 今月も、東京・神保町にある「らくごカフェ」にて、三遊亭遊喜師匠・春風亭伝枝師匠・笑福亭里光師匠・柳亭芝楽師匠・春風亭鯉枝師匠による「ヨセゲー」が開催されました。

 5月のテーマは「落語諸国巡り」。大型連休は終わりましたが、少しずつ気候も暖かくなり、これからいよいよ本格的な行楽シーズン。落語でも「旅」は多く取り上げられる題材です。

 落語で出かける、日本全国諸国巡り。いったいどんな会になったのでしょうか?

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旅の始まりは……

 実はヨセゲーメンバーの中で、最も都心に近い千葉県・木更津出身の柳亭芝楽師匠。ところが、地理的に近い距離にあっても、東京では通じない言葉があって……、というお話から『手水廻し』を演じます。

とある田舎の宿屋にやってきた、大阪からの客。朝起きるなり「ちょうずをまわしてくれ」と女中に申し付けるが、宿の者は誰もその言葉の意味が分からず――。

「田舎を馬鹿にされたくない」一心の旦那は、板場の喜助をお寺の和尚さんのもとへ。「分からない」とも答えられない和尚さんが苦し紛れに出した答えには、客席から小さな笑い声がくすくす。
 やってきた市兵衛さんを演じる芝楽師匠の姿には、申し訳なくも大笑いです。

「ちょうず」の真相を突き止めるため、大阪へやってきた旦那と喜助。「楽しみで寝られなかった」と話す無邪気な様子はもちろん、待ちに待った「手水」との出合いには、悲鳴にも似た大爆笑が起こっていましたよ。

 続いて、笑福亭里光師匠が『こぶ弁慶』を演じます。「けったいな噺」「頑張ってついてきて!」のアナウンスに、どきどきとわくわくが高まります。

お伊勢参りの帰り、清八と喜六の2人は最後の宿場・大津にやってきます。そこで出会った「土」を食べるという男。宿の壁土を食べたその男が高熱から回復すると、肩にこぶができていて――。

 見る者、聴く者の想像力にまかされるところも大きい落語ですが、「こぶがしゃべっている」さまは現実離れしすぎていて、むしろしっくりくるのが不思議。

 男の身体まで乗っ取り、好き放題の弁慶。「弁慶が昼寝をしているすきに蛸薬師へ通う」という描写に、なんだか弁慶への愛着がわいてきてしまいます。笑

 大名行列に、歌舞伎の『勧進帳』さながらの見得を切る弁慶。言い終わって誇らしげなその様子に、思わず笑いが起こります。

 前半ラストは、春風亭伝枝師匠が『愛宕山』を演じます。『こぶ弁慶』で大名行列に出会った洛中を取り囲む山々のうちのひとつ、愛宕山を舞台にした噺です。

旦那や女たちと共に愛宕山に登ることになった、幇間(たいこもち)の一八。たどりついた茶屋で、一行は「かわらけ投げ」に挑戦します。旦那は、かわらけの代わりにあるものを投げてみせると言い出しますが――。

 調子の良い一八を演じる伝枝師匠を見ていると、なんだかこちらまで楽しい気持ちに。
 山に登るなど朝飯前だと得意げな一八は愉快に歌いながら山を登って行きますが、早々に息切れ。「言わんこっちゃない」という姿に、思わず笑ってしまいます。

 旦那が投げた「あるもの」を拾ってきたら自分のものにしていいと言われ、試行錯誤する一八。その欲深さと必死な姿に、また笑いが起こります。

 一八のちょっと情けない姿には、見ていてどきりとするところも。私たちの中にも、本当はそんな姿があるのだろうなあと思わされます。

 着物を裂き、縄を綯い、それを竹に巻き付けて……。
 カートゥーン・アニメーションを彷彿とさせるダイナミックな動きのあるサゲには、いちばんの笑いが弾けていました!

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後半の旅は、上野駅での再会から

 仲入り後は、春風亭鯉枝師匠『おのぼりさん』。

北海道から東京へやってきた大西。友人・渡辺に案内され、東京を巡ります。

 振り返れば、喫茶店→喫茶店→回転寿司店→カプセルホテルと1日歩き回ったお話なのですが、ひとつひとつの視点が鋭く深く、毎日の中にある「当たり前」を当たり前にしない可笑しみがあります。

 噺の中ではさらりと語られていましたが、どうやら画家になりたかったらしい渡辺。「おのぼりさん」とはいえ、「いいべさ」「どうだべ」と故郷の言葉を崩さない大西との対比が印象的でした。

「何でも東京にあると思うな」というのは、東京ディズニーランドの所在地についての渡辺の言葉なのですが、そこにある別の意味に、深く共感を覚える人も多いのではないでしょうか。

 ふわりふわりと移動する場所や視点は、鯉枝師匠ならではの感覚。まるで一緒に東京散歩をしているような心地になりました。

 トリを務めるのは、三遊亭遊喜師匠です。演じるのは『御神酒徳利』。昨年末の第90回ヨセゲーでは、同じく遊喜師匠が「年末大反省会」のテーマのもと取り上げていらっしゃいます。

 同じ演目を、今回は「旅」という別の視点から聴くことになりました。

年末の大掃除の日。水瓶に隠した御神酒徳利のことをすっかり忘れていた番頭・善六は、妻から知恵を借りて、「算盤占い」で見つけたことに。それで万事解決のはずだったのですが――。

 遊喜師匠の生み出す「間」はほんの一瞬、こちらに思考の余地を与えてくれる不思議な間、という印象です。時間がぴたっと止まるような、といえばいいのでしょうか。

 例えば『御神酒徳利』では、水瓶の中から徳利を取り出すまでのほんの少しの間で、そのあとの笑いが増幅されているような気がします。

 他にも、2度目の占いを依頼されすーっと酔いの覚める様子や、3度目の依頼について「もしかしたら来るかなと思っていた」というくだりなどには、落語の登場人物の滑稽さに同情しつつ笑ってしまう客席です。

 大阪から江戸へ東海道を下るその道中をリズミカルに語るくだりは、年末に聴いたときも印象的でしたが、「旅」をテーマにした会の終わりに聴くとまた違った余韻を感じられました。

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おわりに

 いくつかの噺に登場した「お伊勢参り」。「一生に一度は参拝したい」という思いは、今も昔も変わりません。
 お伊勢参りに限らず、「旅」そのものが現代に比べれば困難だったと思われるころから、人々は落語を聴くことで旅気分を味わっていたのかもしれませんね。

 次回・第96回ヨセゲーは「落語いきもの図鑑」。ぜひ、ご一緒に味わいませんか?

ヨセゲー #96【落語いきもの図鑑】
2023年6月8日(木)
開場:18:30 開演:19:00
当日:2000円 前売:1800円 ツイキャス配信:1500円
会場:らくごカフェ(東京都千代田区神田神保町2丁目3−5)
https://twitcasting.tv/c:yosege/shopcart/231284

ツイキャス落語会 ヨセゲー#95【落語諸国巡り】
https://twitcasting.tv/c:yosege/shopcart/231283
5月22日(月)までご覧になれます。

 寄席つむぎでは、三遊亭遊喜師匠、春風亭伝枝師匠、笑福亭里光師匠のお3方のコラムや動画がご覧いただけます。併せてお楽しみください。

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