今月も、東京・神保町にある「らくごカフェ」にて、三遊亭遊喜師匠・春風亭伝枝師匠・笑福亭里光師匠・柳亭芝楽師匠による「ヨセゲー」が開催されました。
6月のテーマは「落語いきもの図鑑」。思い返せば、落語にはさまざまないきものが登場します。
そんな「いきもの」に焦点を当てた今月のヨセゲー。いったい、どんな会になったのでしょうか?
前半に登場するのは、牛と狸
まずは、三遊亭遊喜師匠『牛ほめ』です。
家を新築したおじ・佐兵衛のところへ行くことになった与太郎。父親は、家を褒める作法を丁寧に教えるのですが――。
与太郎は「四十八馬鹿」と呼ばれるほど多く登場する落語の世界の馬鹿の中でも、ちょっとトリッキーな存在。
前座のころからおなじみというマクラへの客席の反応に「よーく考えると、面白いんです!」と力説する遊喜師匠です。笑 確かに、その場にいたらまんまと一杯食わされてしまいそう……。
遊喜師匠の演ずる与太郎には、みんなが応援したくなる魅力がたくさん。「与太郎」らしさたっぷりの振る舞いに、ぐっと心をつかまれます。与太郎の間違いを予測しながら聴くのですが……、やっぱり笑ってしまいます。
さて、いよいよ実際にくだんの家へ。客席に漂うイヤーな予感を突き破る「ごめんなさーい!」には大爆笑!
もらったお小遣いに上機嫌の与太郎、つづけて牛をほめに行きますが――。「ほめる」の本質を分かっていない与太郎を、手に汗握りながら見つめていた客席でした。
続いて、柳亭芝楽師匠が登場です。
飼っていたオスのメダカが亡くなり、寿命だと分かっていても悲しい気持ちの芝楽師匠。
それでも、いきものを大切にすると恩返しに来てくれることがある、というお話から『狸の鯉』を演じます。
子どもにいじめられていた子狸を助けた男のところへ、恩返しに現れた子狸。兄貴分の家に産まれた子どもために、祝いの品として鯉に化けてもらうことになったのですが――。
狸を鯉らしい姿や色へ近づけるべく、細かな調整を加える様子が細やかで、まるで目の前で鯉がつぎつぎ色を変えていくよう。
そんな狸、水に入れないという決定的な!?弱点以外は鯉そっくり。それゆえ迎える大ピンチを、リアルに描写する芝楽師匠の演じぶりにドキドキ。ひゅうっ、と息を呑む客席です。
らくごカフェのある東京都内でも、地域によっては見かけることのある狸。狸の登場する落語も『狸賽』『狸札』など多くあります。それだけ、私たちの生活に身近ないきものといえるのかもしれませんね。
子狸を演じる芝楽師匠が、とってもキュートでユーモラスな一席でした。
後半は、心の準備が必要な!?噺からスタート
仲入り後は、笑福亭里光師匠『紀州飛脚』から。「艶笑(えんしょう)噺」と呼ばれる噺のうちのひとつです。
ヨセゲーの会議でいつもネタの候補をたくさん出す伝枝師匠が、先月のテーマ「落語諸国巡り」と今回のいずれにも候補として挙げたのだそう。
上方落語ということで里光師匠が務めることになりましたが、「心の準備が……」と普段より長めにマクラを振るさまに、客席もどことなく緊張気味です。笑
紀州へ手紙を運ぶことを頼まれた喜六。道中、草むらにいた狐に気づかず悪さをしてしまい――。
先ほどの狸と並び、落語だけでなく昔話などにもよく登場する「化ける」いきもの、狐。「狐の嫁入り」とも表現される天気雨には「狐に化かされているよう」という意味があるようです。このように、洋の東西を問わず、「いたずら好き」「ずる賢い」存在として描かれることが多いいきものです。
さて、『紀州飛脚』の狐はというと……。
客席の半数以上が女性だったということもあり、特に終盤は里光師匠曰く「あっさりめ」に演じられていましたが、飛脚としての使命を全うするための作戦には、思わず大笑いです。
トリを務めるのは、春風亭伝枝師匠。『猫の災難』を演じます。
この日がネタ下ろしとのことでしたが、伝枝師匠にはそれにつけても!?気になることが。
それは、この日から行われていた食虫植物の即売会。初日の朝一番に行かないと、お目当てのものは手に入らないという厳しい世界なのだとか!
無事に「サラセニア・レウコフィラ」などを買うことができ、大満足の伝枝師匠。植物トークが弾けるマクラから、『猫の災難』が始まります。
酒を飲みたいが先立つものがない熊五郎。隣の猫が病気のお見舞いにもらった鯛の残りを、酒の肴として譲り受けます。そこへやってきた兄貴分が、頭としっぽしか残っていない鯛を1尾丸ごとあると思い込み、酒を買いに行ってくれますが――。
お酒を飲んで楽しそうにしゃべる男の姿は、まるで先ほど、食虫植物について語っていた伝枝師匠のよう!
「好きなもの」への熱量は、それが何であれ同じように高いものなのかもしれません。
おいしそうにお酒を飲み、すっかりご満悦の熊さんの姿に、見ているこちらも愉快な気持ちに。どんどん酔っ払っていく熊さんと、その言い訳に巻き込まれていく兄貴のやり取りに大笑い。見ているこちらも、一緒にお酒を飲んでいるような気持ちです。
呂律の回らないそのようすは、もしかして伝枝師匠そのものなのでは……?と思ってしまうほどリアルです。
さてお酒の行方は言わずもがな……、ですが、期待を裏切らないその姿に、「あーあ……」とため息と笑いがもれる客席です。
おわりに
今回登場したいきものは、古くから人々の生活に根ざしたいきものたち。
噺の主役となったり、また名脇役となったり。落語に登場するいきものに、今後とも要注目です!
第96回ヨセゲー「落語いきもの図鑑」は、6月22日(木)までツイキャスでもご覧いただけます。
次回・第97回ヨセゲーは「夏の噺」。ぜひ、ご一緒に味わいませんか?
ヨセゲー #97【夏の噺】
2023年7月6日(木)
開場:18:30 開演:19:00
当日:2500円 前売:2000円 ツイキャス配信:1500円
会場:らくごカフェ(東京都千代田区神田神保町2丁目3−5)
https://twitcasting.tv/c:yosege/shopcart/240874
ツイキャス落語会 ヨセゲー#96【落語いきもの図鑑】
https://twitcasting.tv/c:yosege/shopcart/231284
6月22日(木)までご覧になれます。
寄席つむぎでは、三遊亭遊喜師匠、春風亭伝枝師匠、笑福亭里光師匠のお3方のコラムや動画がご覧いただけます。併せてお楽しみください。
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参考:
・ウェザーニュース. 「晴れているのに雨が降るときの呼び名は天気雨?狐の嫁入り?」. https://weathernews.jp/s/topics/202107/120285/, (参照 2023-06-12)