自分が何のためにここにいるのか?そんなことを考えたことはないでしょうか。笑福亭羽光師匠は落語家の立場から、その疑問に答えを見出そうとされます。20世紀の哲学者のサルトルの提唱る「実存主義」からスタートして、それから…。
あなたも一緒に笑福亭羽光師匠と「自分が存在する意味」について考えてみませんか?
落語家の立場から考える実存主義と構造主義
サルトルの提唱する実存主義は、「実存は本質に先立つ」という有名な一文で説明される。ペーパーナイフを例に出す事が多い。ペーパーナイフは、紙を切る事を目的に作られるが、人間は何の目的で作られるんだろう?神が居ないとすれば(サルトルは無神論者だそうだ)、人間が作られる目的等無い。だから人間は自由だ……。という考えである。
自分で人生の意味を見つけないといけないし、職業や結婚や、芸人いつまで続けるか?等の重要事項を責任持って決定していかないといけない。意思の強い人、前向きな人には向いている考え方なのかもしれない。
僕は……というと、受験に失敗し(勉強しなかったから放棄かもしれない)、就職活動から逃げ、お笑い芸人という名のフリーターになった。25歳まで実家でニート生活だったが、高槻市の近所の人も、「あの人は、夢追い人だから働かずブラブラしているが仕方ない」と、許してくれていた。
あの頃、ニートが許されなくなる年齢は、高槻市は東京より早く、25歳位だったと思う。今はもっとニートでいる事が許されるかもしれないが。
そういう事もあり、実家もつらかったので、「東京でお笑いブームが起こるで」……と爆烈Qメンバーを鼓舞して上京する。
その時点までは、流され続け、何一つ自分で決定しない人生だった。
だから僕には実存主義の考えは、しんどいな~。サルトルは、きっと凄い努力家で、若い頃から戦い続けたんだろう。
レヴィストロースの提唱する構造主義は、実存主義の否定である。人間とか社会システムは、〈何か無意識な物〉に縛られて決定されている。……という考えらしい。未開人達の生活はヨーロッパより劣っている……とそれまで考えられてきたが。それは間違いで、文明の発達していない地域の生活も、西洋人には判らない〈何か無意識な物〉によって構成されている。だから未開人達は、幸せで、誇り高く、決して西洋人たちが見下すべき物ではない。……という考え。(僕の理解が正しいかどうか判らないが、僕はそう理解した)
高槻市で教師の息子として生まれ育った好夫少年は、やはり〈何か無意識な物〉にしばられて生きてきたのだろうか?
親のプレッシャーや、地域の閉塞感に、縛られて、僕の人生は決定づけられてきたかもしれない。
そう考えると楽である。僕が受験に失敗したのも、就職から逃げたのも、幼少期いじめにあったのも、僕のせいではない。高槻市が持つ、また親教師という〈何か無意識な物〉に縛られ導かれたのだから。
25歳の上京までの人生は、構造主義で考えた方が、気持ちが楽になる。
ではそれ以降の人生はどうか?
上京し、一人暮らしし、管理人のバイトをしながら、漫画原作者とお笑い芸人で、世に出ようとした。26歳から34歳までの8年間の分析である。
芸人としては「アメトークに出たいな~」「バイトしないで生活出来たらな」「大きな事務所だったらもっと売れるのに」というような愚痴をいつもこぼしていた。
売れなかったのは、大きな事務所じゃなかったから……4人組でそれぞれ大変な時期が重なったから……という〈何か無意識な物〉が原因としてあったから、売れなかった。構造主義的な考えで納得すると、楽だ。
でも、それが言い訳である事も自分自身気づいている。
漫画原作者としては、才能の欠如をリアルに実感していた。僕には才能が無かった。だから週刊連載打ち切りという時点で区切りをつけて辞めた。……実存主義的な考え。自分で人生の意思決定を責任持って決めた……のかな。
34歳で落語家になってからはどうか。
完全に前座修行は、何も考えず、言われるまま、意見や意思すら持たなかった。お笑い芸人と漫画原作者を挫折した燃えカスのような時期で、鬱病のリハビリだった。だから構造主義的な期間だった。
前座修行が終わり、妻子が東京離れた事もあり、各地を転々とし落語と向き合ったし、コンテストを取ろうと努力したり、新作落語制作が楽しくなり、世に出ようとは、それなりにした。きっと前座修行を一緒にした仲間が物凄く努力していたし、世に出ていたから良い影響を受けたのだろう。落語協会所属だったら、また上方で噺家になっていたら状況は変わっただろう。だから周りの状況〈何か無意識な物〉に影響されて頑張ったのだから、構造主義だろうか。
やっぱり、〈落語的な思考〉は、ダメでも良いやん。人間って駄目で悪なとこもあるから愛おしいやん……という考えだと思う。落語は、どっちかというと構造主義的かなと感じる。
そもそも、サルトルと違って僕は、神は居ると思いたいし、妖怪や幽霊も居ると思う。