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⑯寄席三味線のこと~師匠五代目桂文枝と歩んだ道:桂枝女太

桂枝女太

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桂枝女太師匠は若い頃三味線も習っていたのだそう。三味線のお師匠さんは、上方の寄席囃子の礎を築いた桑原ふみ子さんだったとのこと。今回は桑原ふみ子さんとの思い出をつづっていただきました。

三味線の心地良い音色と、若き日の桂枝女太師匠が見つめた情景を思い浮かべながらお楽しみください。

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寄席三味線のこと

落語に付きものの寄席囃子。三味線と太鼓や鉦や笛で奏でる寄席の音楽。

この寄席囃子というもの、太鼓や鉦は噺家が担当する。楽屋にいる手の空いている噺家が演奏しているのだ。太鼓や鉦は噺家になれば先輩が教えてくれる。また叩けるようにならないと仕事もなかなか廻ってこない。

三味線。これはちゃんと専門家がいる。いわゆる三味線のおっしょはん(師匠)と呼ばれる人たちだ。

この寄席三味線は大変な仕事。出囃だけで数百曲はある。それ以外にハメモノも数知れない。どの落語のどの部分でどの曲をどのタイミングで。またそのタイミングも噺家によって違ったりするからそれはもう大変だ。

若い頃にこの寄席三味線を習っていたことがある。もちろんプロになるためではない。寄席の三味線のおっしょはんは全員女性だ。趣味として習っていた。

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桑原ふみ子という師匠だ。

六代目松鶴師匠と同い年だったと思うので、平成5年に亡くなられたが、生きておられれば今年100歳。

長唄三味線で杵屋柳翁(きねやりゅうおう)を名乗り、戎橋松竹や兵庫の寄席で下座を勤めたという方。長唄出なので腕の方はとびっきり上手かった。

習い出したのは高校のオチケンのとき。

桑原師は70年代半ば頃から大学の落研の人たちに教えるようになった。

その頃はオチケン隆盛の時代というものの、さすがに出囃子はテープでやっていた。

師は当時大阪と松山に住居を構え、松山の芸妓さんに三味線を教えていた。

大学生に教え始めたきっかけはよくわからないが、テープでやっている舞台を見ては可哀想という気になったという話しは本人から聞いたことがある。

愛媛大学。落研とのつながりはここからだったと聞く。間もなく大阪大学のオチケンでも教えるようになった。国立大学ばっかり。ま、たまたまでしょうが。

元々音楽には興味があり、幼少の頃にはピアノ、中学から高校にかけてはトランペットも習っていた。こう言うと格好良く聞こえるが、どちらも全くものにならず、どころか子供の頃のピアノは練習が嫌でストレスから身体を壊したほどだ。

月に2回、東住吉区にあるおっしょはんの自宅での稽古。これは楽しかった。三味線を弾くのが楽しかったのではなくその場にいることが楽しかった。当然腕は上がらない。

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おっしょはんは翠会という稽古人のグループを作って発表会などの場も設けてくれた。

私も毎回出させてもらった。司会者として・・・。

この翠会には現在プロの第一線で活躍している人達がいる。

内海英華、花登益子、中田まなみなどがそうだ。今は現役を引退されたが、かつら枝代師(桂枝雀師夫人)もそうだった。

私以外の噺家も何人かいた。今の桂文我、桂福車、桂文三などが習っていた。もちろん皆プロを目指したわけではない。噺家の教養の一つして習っていた。

落語会でもよく弾いてもらった。今から40年以上前はお囃子のおっしょはんの数が少なく、4~5人程度だったか、それも高齢者ばかりだった。

桑原師は後進の育成にも力を入れていたが、初めからそうだったわけではない。若い子がプロになりたいといっても許さなかった。それは自身の体験からきていた。

昔の寄席の囃子部屋は狭くて薄暗くて、今でもだいたいそうだが、噺家と違って出番が終われば楽屋に戻れるというものではない。開演から終演までずっといなければならない。若い女の子に薦められるような仕事ではないと言って許さなかったのだ。

自身もプロの会には一切弾きに行かないと言っておられたが、そのうち私がプロになると、枝女太さんのだけは行ってあげると言ってくれた。有難かった。

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しばらくしてうちの師匠が「今度のわしの会、桑原さん来てもらえんやろか」。お願いすると小文枝師匠ならと快諾してくださった。そうこうしているうちにいろんな噺家が頼むようになり、いつのまにか寄席三味線の桑原のおっしょはんが復活していた。

前述のように桑原門下のプロの弾き手も生まれ、上方のお囃子さんにも変化が現れた。

自身も三味線の名手、林家染丸師匠も後進の育成に力を入れられ、今では上方に20人程度の寄席三味線奏者、いわゆる三味線のおっしょはんが活躍している。

皆さん自嘲気味に「噺家さんがおらんと私達は成り立ちません」とおっしゃるが、落語も三味線がないと成り立たない芸能だ。

出囃子ならテープでできる。たしかにそうだがやはり生音は違う。

最近のテレビの歌番組、殆どがカラオケを使っている。それも電子音だ。生バンドが演奏しているのは紅白などほんの一部。経費のこともあるのだろうがこれは寂しい。

舞台の上とお囃子部屋との息の合った芸能、これが落語。

寄席や落語会に来られたときには、少しお囃子の方へも耳を傾けてください。

また新しい発見がきっとあります。

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