5月27日に天満天神繁昌亭で開催される「小佐田定雄の世界・その2」。チケットは発売2日目の朝に完売してしまうほどの人気です。残念なことに緊急事態宣言延長により延期に……。
それでも、その人気の秘密について、桂九雀師匠にお話をうかがいました。興味深いお話ばかりですよ。新作落語が未来の古典落語になるエピソード満載!
残念ながらチケットが買えなかった方に向けて、桂九雀師匠からメッセージもあります。最後までじっくりおよみください。
台本だけでなく落語会の流れも小佐田先生が
――チケット完売、おめでとうございます。こちらは小佐田先生の松尾芸能賞優秀賞の記念の会でしょうか?
いえいえ、小佐田先生の著書『新作らくごの舞台裏』が昨年11月に発売されて、一息ついたので開催です。『枝雀らくごの舞台裏』『米朝らくごの舞台裏』『上方らくごの舞台裏』と4冊揃いました。いわば、書籍完成記念の会ですね。お囃子弟子の岡野鏡が提案してくれ、今年2月8日に「その1」の開催が決定しました。松尾芸能賞は本当に想定外で。
――それだけ小佐田先生に功績があると認めていただいたことが、上方落語界の財産ともいえるような気がします。40年以上、情熱を注がれた。
この松尾芸能賞の受賞もあったから、今回の「その2」のチケットが売り切れたんかなと思います。あと、前回は8時終演を徹底されていた時期なので、私の高座をカットしたんです。その時に「2回目をやりますので」と言ったのも、完売の要因かと。
――それだと、第1回のお客さんが全員2回目もお越しになりますね。第1回も私はうかがえずに残念だったのですが、出演者といいネタといい最高のものだと思うです。もちろん今回も。あの流れで見たら、絶対楽しいだろうなぁと。
演者とネタは小佐田先生が選んでいるんです。順番も。私は運営だけで、流れに口出しはしていません。
お付き合いが始まって42年
――運営を任せてもらえるだけ、信頼されているんですね。九雀師匠と小佐田先生のお付き合いは長いのでしょうか?
私が入門した時に、師匠枝雀の家で会いました。これが1979年ですから、もう42年になりますか。小佐田先生は1977年に『幽霊の辻』を師匠枝雀に提供されていて、私が入門した時には師匠枝雀との付き合いはすでにありました。
――入門後、すぐ新作落語とはいかないと思うのですが、何年ぐらいで初めて小佐田先生に作品を提供していただいたのでしょうか?
11年です。『鈴木さんの悪霊』というネタなのですが、これはリメイクなので純粋に新作落語といえるか。それ以前にも古典落語の改作をお願いしていました。
――舞台を現代にみたいな?
一番多いのは、オチの変更ですね。「これ、現代の人に分かりますか?」「これ、おかしいでしょ?」といった古典落語の疑問を反映した台本を、小佐田先生に書いていただきます。オチは私が考えることもあるのですが、そこに至るまでの間が難しい。それで小佐田先生にお願いしました。
改作で自由な落語ができるように
――改作の中で一番思い出深いネタは何でしょうか?
『延陽伯』です。私の落語の転換期になりました。噺家になって10年目ぐらいのころでしょうか。
――確かに『延陽伯』はよく分からない噺ですね。
まずオチが分からないので、自分で考えました。でも、オチまでいく経緯がないため小佐田先生に頼んだんです。小佐田先生の台本だともう延陽伯が出てこないので、『御公家女房』という題で高座にかけています。小佐田先生の台本で、自由な落語ができるようになりました。
――『延陽伯』といえば、米朝師匠が「嫌いや」とおっしゃられていたネタともうかがっています。
米朝師匠は嫌いでも、うちの師匠はよく『延陽伯』をやっていたんです。頻繁に聞かされていたから、嫌になったんとちゃいますか(笑)。
――お腹いっぱいになった感じで(笑)。オチがよく分からんといえば、『狸賽』も現代では伝わりにくいかと思います。サイコロの目を梅に見立てて、梅から連想して天神さん。
私は初演からオチを変えてやっています。これは小佐田先生とは関係がありませんが。
――九雀師匠は『狸賽』のように、よく落語の台本を変えられるのでしょうか?
稽古よりも台本を書く時間の方が長いぐらいですね。台本重視。ちょっとずつ変えていくことで、初めて落語は生き残ると考えています。喋りながらパソコンに向かって書けば、稽古にもなるんですよ。この作業を何度もしていかないと、作品は仕上がりません。
時代にあわせた進化を
――伝統芸能はちょっとずつ変えていかないといけない?
例えば、1960年代に発売されたトヨタ・カローラは、今でも愛されている車です。けれど、名前は同じでも発売当初のカローラと現代のカローラは全く違うものでしょう。時代にあわせた変化があるからこそ、愛され続けるのだと思います。
――なるほど。時代に合わせた変化といえば、現代の落語のお稽古はどうでしょうか?昔のお稽古は口伝えだったとか。
昔のようでは、大変です。私の体力も消耗しますし(笑)。それで、私は落語の台本をファイル共有サイトにアップロードして、弟子やよくお願いするお囃子さんが自由に見られるようにしています。
――めちゃめちゃ現代的ですね!それに、台本を読むだけでも、とても勉強になると思います。
弟子は先に台本を読んで覚えてから、稽古に。お囃子さんは台本を読んでもらっていると、ハメ物のきっかけを言わなくてもいいでしょう。あと、急に私に何かあった際も弟子が落語をできるようにと。この年になると、後世に伝えることが大切になってきました。
ハメ物は和楽器でなくてもいい自由さ
――小佐田先生の台本が届いたら、真っ先にされることは何でしょうか?
まず通しで読んで、全体像をつかみます。その後自分の口調に。といっても、小佐田先生は演者を決めて書かれるので、私が言いそうな台詞が初めから入れられているんです。とてもやりやすい。
――他の新作落語とは一味違う感じなんですね。
小佐田作品に到達している新作落語は、なかなかありません。小佐田先生は落語だけでなく、落語家にもお囃子にも精通している類まれな人なんです。
――ハメ物も小佐田先生が指定されているのでしょうか?
そうですよ。台本に書いてあるんです。ここに何々と。
――不勉強で初めて知りました。そういえば、学生時代に研究されていたのが寄席囃子だったとうかがっています。
和楽器だけでなく、中国琵琶や洋楽器のハメ物が入る新作落語も作っていただきましたね。極めつけが吹奏楽がハメ物の『新出意本忠臣蔵』です。
――とても豪華!発想がすごいです。
和楽器以外のハメ物は、私が「こんなの面白いんちゃうかな」と小佐田先生に提案したら、「やってみよう!」と言っていただけて実現しました。中国琵琶がスタートです。
小佐田先生は落語を作り上げる同志
――ひとつの発想で、落語の世界が広がっていくのは興味深いです。このように新作落語も進化していくのかも知れませんね。
やり続け、複数の演者が高座にかけるから、小佐田先生の作品も進化していくのだと思います。『茶漬えんま』も初演のころと今では違うんです。舞台がいわば役所なので、現代はパソコンに向かっている場面を入れています。
――なるほど。そうやって小佐田先生の新作落語が、未来の古典落語に。九雀師匠の落語家人生42年、共に歩み続けられた小佐田先生はどのような存在でしょうか?
落語を作り上げる同志です。
――今だからこそ伝えたいメッセージはありますか?
直接話すから、特にないかな。あえて言うなら、健康に気を付けてくださいというぐらい。野菜が嫌いやから(笑)。
――最後になりましたが、チケットが買えず、当日繁昌亭にうかがえないお客さんに一言お願いします。
みんながどっかでやってるネタですので、ヨソで聞いてください(笑)。
――ありがとうございました!
天満天神繁昌亭でお待ちしています!
今回はじっくり桂九雀師匠にお話をうかがいました。九雀師匠のお稽古のスタイルが、特に興味深かったです。台本重視で、回を重ねるごとに台本が変わっていく。この作業こそが、小佐田先生の新作落語が未来の古典落語になっていく進化の過程ではないかと感じました。
桂九雀師匠ご出演の「小佐田定雄の世界・その2」は、5月27日に天満天神繁昌亭で開催を予定されていましたが延期になりました。後日、同じ演者同じ演目で開催予定とのことです。詳しくは桂九雀師匠のTwitterと繁昌亭HPをご確認ください。