六代目笑福亭松鶴師匠といえば、多くの逸話をのこしたことでも有名です。その中でも鶴光師匠が印象に残っているものをつづっていただきました。これは大変だ……。
落語界は徒弟制度であり、上下関係が厳しい世界。師匠に逆らうことなどできません。でも、さすがにこれは無理だと鶴光師匠が思われたことも。お楽しみください!
青色は何色?
噺家の世界は未だに徒弟制度、絶対服従の世界 インドのガンジー首相は不服従をスローガンにしてましたが、我々の世界では在りえない。例えば師匠がカラスの色は白と主張すればそれが通じる。最もこないだ図鑑を調べたら白いカラスは実在するらしい。
ある時松鶴がマジックインキを買ってこいと命令した。
「師匠 何色ですか」
「青や」
青色のマジックインキを買ってきて手渡すと、私を睨みつけて
「青や言うてるやろ、何を聞いとるね、これはな空色や。もう一辺行って来い」
青色イコール空色と思い込んでた私は困りました。ひょっとして紺色と間違うてるのかも?と思いその色を買ってきて
「これですか」
と渡すと、今度は手が震えてまんね(おやっさん、アルコール依存症でっか?)
「何辺言うたら判るね、これは空色の濃い奴や青色をば買うて来い」
錯乱状態。もう青色てどんな色や解らん様になりまして、文房具屋さんへ。
泣きついて行ったら、親切な人で、あるだけのマジックインキ全部出して来て、
「これを持って行きなはれ」
師匠の前にずら~っとを並べて
「勉強不足ですいません、この中から青色選んどくなはれ」
今度は師匠、目に涙浮かべてまんね。
「お前学校へ行ってんのんか、情けない奴や、青も判らへんね、青と言うのはこれじゃ」
掴んだのが緑でした。私この時初めて師匠に逆らいました
「お言葉を返すようですが、それは青とは言いまへん、みどりとかグリーンと言いまんね」
「何を抜かしとるね、信号機見て見いこれが青や」
負けまへんやろ。確かに昔の信号機は緑が青でした。
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松鶴がおしゃれと聞くと首をひねる人も居る。古着屋で黒紋付の羽織を買ってきてはマジックで塗りつぶして五枚笹(笑福亭の紋)を書く人ですから。
戎橋松竹に東京から小文治師匠(弟子が今輔その弟子が米丸と二人の落語芸術協会の会長を育てた大物)が来演した時、内の師匠が弟子代わりにお世話をしたら千秋楽に自分の袴を師匠にくれた。余程見すぼらしい衣装に同情したんでしょうな。
「有難うございます、大切に使わさして頂きます」松鶴そのまま質屋へ直行飲み代と消えました。
米朝とわしとではラベルが違うとおっしゃった時、それはレベルでっしゃろと、訂正すると
「ビールでもそうや、キリンはキリンのラベルアサヒはアサヒのラベルそうやさかいわしは間違うてない」
絶対負けまへんやろ。
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米朝師匠が大阪府民劇場賞をもらった時授賞式の楽屋で
「米朝さん、あんた、この頃忙しくてあんまり寝てないやろ」
「ここんとこ寝不足で」
「だからもらった賞が府民賞(不眠症)やな」
米朝師匠の逸話、人間国宝になった頃、新幹線の車両でたばこをふかしてると、車掌さんが
「すいません、この車両は禁煙ですが」とたしなめると師匠が
「米朝です」
何ぼ人間国宝でもルールは守らんとね。