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NHK新人落語大賞受賞・笑福亭羽光さんにインタビュー!「あの頃の自分に聞いてもらいたい」

インタビュー

今年のNHK新人落語大賞を見事受賞した笑福亭羽光さん。新人といっても、今年48歳のオジサンです。年下の仲間たちと切磋琢磨し、やっと掴んだ二つ目の頂点。ここに至るまで、どのような紆余曲折があったのでしょうか。

今回は笑福亭羽光さんにじっくりお話をうかがいました。様々な経験の積み重ねが、栄光につながったようですよ。お楽しみください。

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呪われた土地・高槻市を脱出して

――びっくりしたのですが、私と羽光さんは出身中学が同じです。私は5年後輩になります。

羽光さん:高槻市立川西中学ですね。荒れていたでしょう?

――いえ、私の時代はわりと平穏でした。

羽光さん:5年でだいぶ変わるものですね。僕の時代は漫画『ビーバップハイスクール』のようでした。授業なんて受けられない。嫌でたまらなかったな。僕は理科部に所属していたのですが、爆弾の材料を作ることに没頭していました。

――爆弾じゃなく材料??

羽光さん:そう、材料。ニトログリセリンはOKなんですよ。でも、シアン化カリウムはNG。基準が分からないですね(笑)。

――こんな学校、いつでも爆破してやるといった感じでしょうか……。羽光さんはその後、大阪府立高槻北高等学校から大阪学院大学に進学をされたとのことですが、青春時代はずっと高槻だったんですね。学院大は吹田市ですが、すぐそこですし。

羽光さん:初めて女の子とラブホテルに行ったのも高槻です(笑)。171号線沿いの「北国」というホテルに車で行きました。

――おお!今は名前が変わっているんですよ。

羽光さん:そうなんですか。僕がバイトしていたジャスコは?

――今はイオンです。懐かしいでしょう?

羽光さん:いえ、懐かしくは思えない。僕の両親は数学教師と英語教師で、良い学校良い会社に入ることが重要でした。レールの上を歩む人生ですね。それがずっと重荷で。こんな青春だったので、僕にとって高槻市は呪われた土地です。

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SFが一番人間を描けるから

羽光さん:大学入学で親が期待するのを止めてくれて、やっと解放されました。落研に入って落語をしたり漫才をしたり。素人名人会にも出場しました。卒業後にすぐ落語家に入門せずお笑いを続け、25歳の時に高槻を離れ上京。ビル管理などのバイトをしながら、お笑いをします。

――漫画原作者もされていたんですよね?

羽光さん:友人に漫画が描ける人がいるので、彼に絵を描いてもらって。ヤングジャンプで連載をしていた『性的人間』は青春エロですが、最初に入賞した作品はSFです。

――先日、NHK新人落語大賞を受賞された新作落語『ペラペラ王国』もSFですね。回想の中に回想がある。

羽光さん:小さい頃からSFが好きなんです。フィリップ・K・ディックが好きで、彼の作品では『ブレードランナー』が有名でしょうか。SFが一番人間を描けると考えています。不確かな現代、虚実が入り混じる中、この世界は全部誰かの回想なんじゃないかという発想から、『ペラペラ王国』は誕生しました。

――初めてお聞きした時はビックリしました。自分は何を見たのだろう?という感じで。

羽光さん:SFは分かりにくく、独りよがりになりがちです。分かりやすくするために、見台をたたいて場面転換をするなどして工夫をしています。

――SF以外で好きなジャンルはありますか?

羽光さん:ミステリーも好きです。高槻の天神山図書館で『シャーロックホームズの冒険』や江戸川乱歩を読みふけりましたね。色んなものと触れ合えた場所でした。

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12月14日開催、第2回笑福亭羽光新作勉強会「一心不乱」でもSFを

――12月14日の新作落語会でかけられる『鶏と卵』もSFでしょうか?

羽光さん:SFです。筒井康隆先生の短編に似ているとよく言われます。「卵」と「親子丼」という言葉が消えている世界で、最終的には全ての言葉が消える。言葉が消えた末は、文明も消えるというものです。

――ああ、筒井先生っぽい。言われてみれば、物を認識する上で言葉は重要ですね。

羽光さん:言葉の進化がイコール人間の進化だと思うのです。

――子供も言葉を覚えていって、どんどん大人になりますもんね。

羽光さん:12月14日の勉強会は、エロネタ禁止・地噺禁止と縛りのキツイ会です。毎回、新作落語のネタおろしをしていますが、いつも出来上がるのがギリギリになってしまう。それでも真打披露興行までに、寄席でできる形にするために頑張ります。

――ネタおろしは当日までのお楽しみですね。どんなのが出来るのかな。地噺を新作落語に取り入れると、幅が広がりそうですね。

羽光さん:地噺は講談を参考にして取り入れています。私小説落語というシリーズ物新作落語を作ったのですが、こちらも現代と回想シーンが行ったり来たりします。

――それも面白そう。でも、12月14日は地噺以外なんですよね。別の機会まで待ちます。本当に多元的な発想で新作落語に取り組んでおられるますよね。羽光さんは言葉に対するこだわりが強い方でしょうか?

羽光さん:作家の道も考えたことがあります。テレクラや合コンのルポを書かせてもらったり、漫画原作だけでなく戯曲の執筆もしたり。自分の文章を読んでもらうのが好きなんでしょう。これら様々な経験の総合したものが落語です。

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恩返しにしたいことは「新作落語教室」

――羽光さんの人生48年の集大成の新作落語でNHK新人落語大賞を受賞し、来年は真打昇進です。この勢いに乗って何かやりたいことはありますか?

羽光さん:今まで通りです。師匠鶴光をはじめ色んな人に良くしていただきました。その恩返しができればと思います。

――恩返しといっても、様々な形があると思います。金銭を渡すのが恩返しという人もいれば、羽光さんが人気者になるが恩返しという人も。

羽光さん:うーん……。後輩向けに新作落語教室は考えています。新作落語は自分の「教科書」を作るのに時間がかかるんです。僕は三遊亭円丈師匠に多くのことを教えていただきました。円丈師匠の新作落語をつけていただいたこともありますし、発表する場を設けてくださったことも。

――円丈師匠にしていただいたことを、今度は後輩たちに?

羽光さん:僕、案外教えるのが上手かったんです。やはり教師の子なのでしょう(笑)。コロナ自粛中にオンラインでシナリオ教室を開催したのですが、とても好評で。これから新作落語をしたい後輩たちが迷わないようにしたいと思います。

――教えることで、また新しい発想が生まれるかも知れませんね。楽しみです。

羽光さん:数年前に大病をして、時間が大切だと痛感したんです。残された時間で、どれだけ好きな小説か読めるか、自分の作品が残せるか。自分のやりたいこと以外はやらないようにしたいですね。

モテたかったあの頃の自分に聞いてもらいたい

――練りに練り上げた羽光さんの落語、どんな人に聞いていただきたいですか?

羽光さん:ジャスコで早朝の品出しをしたり明治の工場でチョコレートを作ったりしていた、モテたかった自分です。恵まれた人ではないから、空想の世界が大切で。師匠鶴光のエロもきっとそうでしょう。恵まれていないから、エロが大切だった。

――でも、NHK新人落語大賞を受賞したのですから、歌舞伎をふらっと観に行けるような人もお客さんになってもらえたら……。二つ目の頂点ですよ。

羽光さん:そういう人たちって、エリートで恵まれた人生を歩んでいるでしょう。そういう人たちに僕の落語は向いていません。もっとも、今までそのような人たちに見向きもされなかった僻みもありますが(笑)。

――満たされない人の方が共感を得られるのかも知れませんね。

羽光さん:僕らの年代は引きこもりが多いといわれています。バブルが崩壊して、アメリカ的価値観に変貌してきているのに、未だにレールの上に乗っているのでしょう。良い学校・良い会社、そのレールに乗れなかったら今度は引きこもりのレール。

――羽光さんは早々にそのレールから降りましたね。

羽光さん:はい。レールに乗らず挫折続き、34歳で入門。こんな僕でも、二つ目の頂点に立てました。これからの時代、年寄が若者に打ち勝つストーリーが求められるかもしれません。僕の存在が同年代の勇気になれれば。それが僕の存在価値だと思います。

新宿ミュージックテイトでお待ちしています!

今回は笑福亭羽光さんにじっくりお話をうかがいました。とても冷静にご自身を分析しておられる反面、熱い想いも秘めておられる印象でした。青春時代の鬱屈した気持ちを48歳になった現在に昇華させる笑福亭羽光さんの姿は、現在上手くいかないと悩む人の光になるのではないでしょうか。

この笑福亭羽光さんの会が12月14日にミュージックテイト西新宿で開催されます。新作落語のネタおろしもありますので、お楽しみに!

第2回 笑福亭羽光 新作落語勉強会「一心不乱」

日時:令和2年12月14日(月)19時30分開演

場所:落語くらぶ(ミュージックテイト西新宿店内)

東京都新宿区西新宿7-16-13末廣ビル103

木戸銭:前売り1500円、当日1800円

ご予約・お問い合わせ:03-5332-6396(株式会社ミュージック・テイト西新宿店)

ticket@musicteito.co.jp

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執筆者
ふじかわ陽子

◆寄席つむぎ運営管理責任者・あど屋店長◆
コンテンツライター/DMデザイナー/メディアコンサルタント/時々声優
昭和52年広島県安芸郡海田町出身、近畿大学文芸学部卒
平成13年4月上方講談師に入門、平成19年11月病気休業、令和元年9月講談師を廃業、令和2年6月寄席つむぎをスタート。
幼い頃から喋ることと文章を書くことを好み、小学生の時に初めてミニコミ誌を発行。印刷物のレイアウトやデザインを独自に学び、芸人時代のチラシ・DMの作成は自身で。休業時代にはライティング技術を磨き、現在は「何を売るか」を文章で伝えることを生業とする。中でも求人広告は応募率100%を誇る。
猫と陸貝と神社が好き。

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