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芸人とノーギャラ~日常ドキュメンタリー:三遊亭はらしょう

三遊亭はらしょう

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芸人のギャラはピンキリで、売れっ子になると一公演○十万ということもあります。しかし、そうでない方のギャラはそう多くありません。三遊亭はらしょうさんはなんとノーギャラの仕事(?)もあったのだそう。

このノーギャラの仕事(?)の思い出をつづっていただきました。今だからこそ笑い話にできるようですが、当時は大変だったのだそう。三遊亭はらしょうさんの思い出、笑って一緒に昇華してください。

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芸人とノーギャラ

たまに、ノーギャラの仕事というのがある。ギャラどころか、交通費すら一銭も出ない。

これは十年ほど前の話である。俺は、後輩の関根大という芸人と関東の某所で、地域の夏祭りに出演した。それは、一風変わった仕事だった。

「いやぁ~野外ステージが四時間空いててね~好きなことガンガンやってちょうだいね、お笑いでもなんでも、歌でもいいよぉ、とにかくお客さん盛り上げてよワハハハ~」

いかにも調子の良さそうな主催者に迎えられながら、衣装に着替え、野外ステージへ上がった。

だが、お祭りはとっくに始まっているものの、朝からの猛暑で野外席には誰もいない。仕方がないので、俺と関根は舞台上からマイクを使って呼びかけることにした。

「みんな~ライブが始まるよ~笑いで暑さを吹っ飛ばそう!三遊亭はらしょうで~す」

「ピン芸人の関根大です~今から、おも、面白いライブが、おも、ううう、オェェェ~」

いきなり関根が、えずきはじめた。そのまま、オェオェ舞台を降り、水をガブガブ飲んで帰って来た。開始早々、二人しかいない出演者の内の一人が、熱中症になりかけている。

「お待たせしました、少し太陽を浴びすぎました~では気を取り直して~オェェェ~」

全然気を取り直せてない。こんなお笑いライブ観たことがない!

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

このまま関根がダウンしてしまったら、俺一人で炎天下の中、四時間ネタをするのは地獄である。

「おーい!芸人さ~ん」

突然、近くの屋台でかき氷を売っていた鬼みたいな顔のおっさんが、ステージの下までやって来た。

「かわいそうで見てられねぇよ、ほら、冷たいかき氷でも食え」

そう言って、ブルーハワイを二つプレゼントしてくれた。地獄に仏、鬼のおっさんが菩薩に見えた。俺と関根は、舞台上で既に溶け始めていたそれを一気食いではなく、一気飲みした。

「ヨッシャ~復活しました!」

関根が元気になった所で、呼び込みを再開した。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

しばらくすると、こちらの思いが伝わったのか、ぼちぼちと数名のお客さんが座り始めた。

「ありがとうございます~では、まずは落語を一席!」

俺は、汗が止まらない位暑かったが、満を持してネタが出来た喜びはスポーツでかく汗のように爽快だった。

だが、太陽がギラギラと照りつける中、ジッと座っている観客は耐えられずに、次々と席を離れて行った。また、ゼロに戻ってしまうのかと不安になったが、最後に一人だけ60代位の女性が残っていた。

「ありがとうございます~もうちょっとで終わりますからね~」

俺は嬉しさのあまり、思わず話しかけた。

だが、どうも様子がおかしい。ピクリとも動かないのだ。なんと、このお客さん、暑さでグッタリしていた。

「大丈夫ですか!」

俺は舞台上から呼びかけると、お客さんは、

「ええ、はい」

と言いながら、フラフラといなくなってしまった。どうやら、一時的に暑さで意識を失いかけていたらしい。

「いやぁ~またお客さん、ゼロになりましてね~オェェェ~」

関根も、意識を失いそうだ。

このライブ、本当にこのまま続行していいものなのだろうか。主催者の方に聞きたいが、近くにいない。

ともかく四時間、与えられた仕事をやるしかない。

そんな心配をしていた矢先のことだ、突然、救急車のサイレンが聞こえて来た。

つづく

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