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【祝!準グランプリ】新作は誰や?と聞かれたら「三実」と言われるようになりたい!桂三実さんにインタビュー!

ふじかわ陽子

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令和2年度若手噺家グランプリで見事、準グランプリを受賞された桂三実さん。六代桂文枝師匠のお弟子さんで、今年入門9年目です。新作落語の大家・文枝師匠のお弟子さんらしく、桂三実さん自身の手による新作落語『みんな京阪』で受賞されました。今まで手掛けた新作落語はなんと50本なのだそう。

名古屋市出身で、高校を卒業されてから落語家になるために大阪に来られたとか。今回はこの桂三実さんに準グランプリの喜びや、落語への思いについてうかがいました。ヨソ者だからこそ見える大阪があるようです。お楽しみください!

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「なんで2位の僕なんですか?」

――若手噺家グランプリ準グランプリ、おめでとうございます。

有難うございます。そろそろ今年のエントリーが始まる時期ですが……。元々去年に開催予定だった決勝戦が、今年の2月になったんですよ。

――それからすぐインタビュー依頼をしたにも関わらず、吉本興業のチェックが入り、さらに存在を忘れられ今に至る……。

今、吉本は裏営業のことでピリピリしているんです。すみません。

――いえいえ。私も反社の人でないと知っていただけた方が良いので。多分、調べて何もなかったから連絡を忘れられたんでしょうね。

僕が吉本に確認の連絡をした時、あきらかに忘れている感じでした。

――あ、やっぱり。それはそうと、本題です。新作落語で準グランプリ、それも大阪弁の不可解さを描いた作品での……。

それより、なんで2位の僕なんですか?

――1位だったら、「あの子、私が先に目ぇつけとってん」が言えませんので。ぜひ今年優勝して、私にドヤ顔をさせてください。

優勝したいです!賞金は20万なんですけど、20万あったら引っ越せるじゃないですか。狭いユニットバスで体を洗っている時にふと思うんです。「何してるんやろ」って。今年28歳なんですが、同級生は結婚をして子供もいるのに……。

――それを考え始めたらあきません。ドツボにはまります。

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ヨソ者だからこそ見えるものがある

大阪に来て最初は治安が良くてオシャレな中崎町に住んでいたんですが、大阪っぽい土地にも住んでみたいと思って大国町に引っ越したんです。そしたら、24時間10分おきにパトカーのアラームが……。

――大国町は、最も濃い大阪の一つですよ……。もっとライトな大阪じゃないと、府外から来られた方にはキツいかと。

それに気づいたのは引っ越してからでした(笑)。僕は名古屋出身なんですが、閑静な住宅街なんですよ。だからギャップが激しくて。大阪は違法駐輪は多いし信号無視も多いし、でもご飯は美味しい。

――私の名古屋のイメージがそんな感じです。スピード違反なんて何のそので、ご飯は美味しい。

え、そうなんですか?中にいると分からないのかも知れません。大阪は本気度が濃い街だと思います。道端でキレているオッサンに、駅で泣いているオバハン。角を曲がったところでは、白人と黒人が日本語でケンカしていて。みんな本気。

――混じりけのない大阪ですね。THE大阪。

女の子も大阪は違います。普通、好きなタイプに「おもろい人」なんて言わないですよ(笑)。おもろけりゃええやん、それが標準なんも大阪ならではだと思います。ヨソ者なので見ていて面白いです。

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文枝師匠に新作落語を見てもらうことはないけれど

――ヨソ者感覚が存分に生かされたのが、若手噺家グランプリ準グランプリを受賞した『みんな京阪』だと思います。大阪弁のイントネーションを標準語にあてはめた。

あのネタは珍しく実体験を元に作りました。古典落語をつけていただいている時に、なまりを指摘されることが多かったんです。忘れるからメモをしていて、それを何かに使えないかなと思い、新作落語を作りました。自分が乗っかりやすかったので、今までの新作落語とは違うかなと思います。

――とても新鮮な良い作品だったと思います。新作落語を文枝師匠に見ていただくことはありますか?

新作落語を見ていただくことはありません。たまに「どんなん考えてんねん」と尋ねられた時にお話して、アドバイスをいただくことはあります。

――そうなんですか?三実さんの高座は、これぞ文枝の弟子!といった感じで、とても文枝師匠の影響を色濃く受けているように感じられます。

有難うございます。僕、落語をするなら新作もしたいと、師匠に弟子入りをさせていただいたんです。普段どんな風に物事を捉えておられるか知れるかなと思って。弟子にさせてもらってから、僕と全然違うと分かりました。物事を俯瞰して見ておられるんです。

――例えば?

例えば喫茶店で、他のお客さんが喋っているとするじゃないですか。僕は「うるさいな」としか感じないのですが、師匠は違って、そこから広がるドラマを見ておられたんです。それが師匠の新作落語『喫茶店の片隅で』になりました。

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師匠は徹底的に、僕はなんとなく

――文枝師匠は、いつも何気ない日常から新作落語を生み出しておられるのでしょうか?

ふんわりとは作っておられません。めちゃくちゃ勉強されておられます。本を読んだり、落語の舞台になる土地を歩いたり。依頼があれば、オランダまで行かれるんですよ。現地を歩かないと血の通った落語は生み出せないと。

――徹底していますね。

そうなんです。本をたくさん購入され、移動時間に読んでおられるんです。依頼された土地の昔の話も、資料を集めて徹底して調べ上げておられます。その分、噺の完成度が違うのかと。僕はなんとなくで作ってしまいます。徹底してしまうと時間がかかってしまうので。

――ふんわりでも、私は面白かったですよ。『ヨケイナンジャー』を生で聞かせていただきましたが、なるほどなぁと思いましたし。

『ヨケイナンジャー』は、口癖って面白いなと思って。僕は設定から考えて、そこから膨らませていくんです。サゲは一番最後に苦し紛れに(笑)。

――膨らませ方は、どう考えているのでしょうか?

例えば『ヨケイナンジャー』なら、内側からの場面と外側から見た場面を入れます。先に考えるのは先の内側からの場面で。でも、僕は膨らませ方が下手なので、先輩から「これ、5分で済む噺やな」と言われることがしばしばで。

――これからこれから。9年目で完璧にやられたら、先輩の面子を潰しますよ(笑)。

前座だと5分で下がったらダメなので、無理やり10分にしているものも多いです。落語としてはまだまだです。頑張ります。

TUTAYAに毎週通う日々

――そもそも、落語にハマったきっかけは?

中学生のころ、テレビでダウンタウンの松本さんが「枝雀師匠のCDを聞いている」と言っておられたんです。それで興味を持ちTSUTAYAで古今東西の落語CDを借り、聴き漁りました。毎週、TSUTAYAに通っていたんですよ。

――図書館にも落語CDはたくさん置いてあるから、便利だったでしょう。

それに気づいたのは、あとからなんです。全部TSUTAYAで借りていました(苦笑)。あ、図書館にはないTSUTAYAの良いところは、全巻揃っている点です。でも、うちの師匠のCDは図書館の『ブラックジャック』みたいになっていました。1巻・3巻・8巻・11巻みたいな。

――あら、何ででしょうね。三枝師匠のCDは細切れだったのに、三枝師匠に入門された理由は?

落語のCDを聴きまくっている時に、たまたまテレビでうちの師匠の新作落語『鯛』を拝見したんです。生け簀を泳いでいる魚はどう思っているのかから生まれた新作落語だと聞いています。変な言い方ですが、ギャグギャグしていなくて人間味がある師匠の落語に惹かれました。「そこを笑いにするんや」みたいな。

いつか「新作なら三実」と言われたい

――なるほど。古典落語には、あまり惹かれないのでしょうか?

古典落語もやりたいんですよ。古典の中では『大安売り』が最近好きです。落語には色んなアホが出てきますが、『大安売り』の力士が一番アホやと思うんです。何で相撲が弱くて、ちゃんこ鍋が上手いんや?!めちゃくちゃアホやん(笑)。アホさをもっと伝わるようにしたいです。

――三実さんは新作や古典といったジャンルに捉われず、「落語」が好きなんでしょうね。

落語を聴き始めたころ、落語にはまだまだ新しいことがやれる可能性を感じたんです。自分のカラーをどうしようか迷うこともありますが、いつか「新作なら三実」と言われるようになりたいです。でも、古典で挑戦したいネタもあるんです(笑)。

――今は欲張りで良いと思います。今の文枝師匠のキャリアになった時、必ず今の経験は生きてきますし。

有難うございます。師匠文枝のテーマは「普遍性と日常性」です。無理のない笑い。僕はまだまだなので、これからも色んなことに取り組んでいこうと思います。

天満天神繁昌亭でお待ちしています!

今回はじっくり桂三実さんにお話をうかがいました。なかなかの好青年で、視点がとても面白いと感じました。私が落語会のチケットをなくしたと言えば、「アホやないですか」とすかさずツッコミ。その後「手帳に挟んでおくとなくさないですよ」とアドバイスもしてくれました。良い人です。

桂三実さんご出演の会は、桂三実さんのブログTwitter繁昌亭HPでチェックしてみてくださいね。

これからも桂三実さんのご活躍から目が離せません。