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平和ボケした落語家の幼少期~SFと童貞と落語:笑福亭羽光

笑福亭羽光

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2020年初旬より始まったコロナ禍により、生活は一変。しかも今年の2月から始まったロシアによるウクライナ侵攻により、日本人の暮らしは一層辛いものになってきました。こちらについて笑福亭羽光師匠がご自身の考えをつづってくださいました。幼少期の体験を通じ、笑福亭羽光師匠が考えておられることとは?

じっくりお読みください。

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平和ボケした落語家の幼少期

ウクライナで何人人が死んだという数字を、感情無くニュースで目にする。コロナ感染者の数字もほぼ心を動かさない。あ~また寄席の客が減るのかな、落語の仕事がまた減るのかな……という事をぼんやりと考える。朝、スマホを開いてニュースを見た時の僕の状態である。


死や戦争や疫病に無関心であるのは、自分に直接関係ないからなのだろうか。コロナの動向は直接関係あるのに、死者数も気にならなくなった。


ウクライナという遠い土地で人が死ぬ事にいちいち一喜一憂していたら心が持たないのだろう。人間は無関心無感動になる能力がある。そのおかげで気が狂わなくて済むのだ。

ウクライナで、見ず知らずの子供が戦争で死んだ。

ああ、自分の家族でなくてよかった。かわいそうやな~、プーチンだれか止められないのかな……と普通に思う。普通の感覚を持った人間なら思うだろう。

でも自分が何とかしようとは思わない。怖いし、僕はそんなヒーローじゃないし、自分や自分の近しい人にその不幸が襲い掛からないでよかった、あの人達は運が悪かったんだ。……もしくは政治的判断をどこかで間違えたんだ。と思おうとする。


日本の周りも軍事的緊張が高まっている。中国の船が領海内を通っても、北朝鮮からミサイルが発射されても「またか、海に落ちたのか」……としか思わなくなった。

いつか、それが国土を破壊する可能性を持っているのに。
この感覚は何なのだろうか。想像力の欠如だろうか。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

父は英語教師で国際感覚を持った人だった。幼少期から高槻市の実家にホームステイの外人さんを招き、物心ついた時から家に見ず知らずの外人さんがいる日々だった。

多種多様な外人さんが来た、オランダ人のフランスさんにはよく「名前ややこしい!」と突っ込んでいたし、韓国の人も中国の人も居た。

僕の実体験を基にした【私小説落語】シリーズはこのころの経験から生まれた。ホームステイの外人さんにオナニーを見つかったり、近所の畑仕事している老人が黒人は皆エディーマーフィーと呼んでいたり……という。

僕の祖母の弟は、第二次大戦で戦死した。米国に祖母は恨みを持っていたが、父のホームステイを仕方なく受け入れた。キャレンさんというアメリカ人の女性がホームステイに来て一年過ごした後、祖母とキャレンさんはすっかり仲良くなっていた。キャレンさんは「ニッポンのおばあさん」と呼んで祖母に本当に心を開いて良い関係を結んでいたのだ。


祖母の米国に対する恨みは消えていたのだろうか、弟を戦争で亡くした恨みは最後まで消えはしなかったかもしれない……ただ、アメリカ人にも良い人もいる……とは考えを改めたに違いない。

そしてアメリカを憎む量を、キャレンさんとの思い出分差し引いて、憎しみを軽減させたかもしれない。

父は広島の原爆投下に関する英語版の読み物を大量に購入して、来たホームステイの外人さんに渡し続けていた。


高槻市の村で、外人さんを受け入れて目立つのが嫌だった僕は、「なんでうちは外人さんばっかり住まわせるの?」と母に聞いた事がある。

「もしアメリカが日本を攻めようと考えたら、キャレンさんが止めてくれるかもしれんやろ」と母は答えた。

僕は一人のアメリカ人女性の声が戦争を止める事など出来ない事は知っている。しかしそれが集まり民意を持てば力を持つかもしれない。

日本と軍事的な緊張が高まっている国に、知り合いがいる。

その知り合いたちは、日本に軍事侵攻が決定する前に僕の事を思い出して躊躇してくれないだろうか。
想像力は抑止力にならないのかな~。

所詮平和ボケした落語家の甘い考えなのかな~。と考える。

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サンテグジュペリ【星の王子様】に、こんなシーンがあったように記憶している。あえて文章を引用せずに僕の記憶のまま記す。

空を見上げる時、無数の星の中のどこかに王子様がいる。そう思って空を眺めたら、このなんでもなかった星たちが、突然意味を持ち、特別にキラキラ輝いて見える。無数の星たちのどこかに王子様の居る星を含んでいるだから。

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